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黒木紗夜華編~アクトレス~

「オレは男だっつってんだろっ!!」

白川みずきが男だと認め、世間を騒がせてから20年が過ぎた。
今となっては、30歳以上の人に白川みずきの話をすると、「白川みずき、ああ、そんな人いたような気がする」ぐらいの程度になってきており、世間の人の記憶からは忘れられようとしている。
黒木紗夜華はあの後、卒業まで第一小学校ですごし、その後は、前の校区に戻って、それから晶とは会っていなかった。
そのため、紗夜香は、今晶がどうなっているのか知らない。
紗夜香にとっては晶がどうなろうが関係ない。
だが、やはり一度恋をした相手、紗夜香は心のどこかで少し気にかけていた。
紗夜香が知ってることといえば、あの事件から3ヶ月間の晶だけ。
さすがに、最初のうちはクラスメートから避けられていた感じがあった晶だが、しかしもともと明るい性格で好かれやすい性格のため、1ヶ月もしないうちに前と変わらない雰囲気に戻っていった。
そして卒業式、晶はクラスのみんなの前で智恵子と付き合ってるとクラスに告白した。
紗夜香としては、まあそんなことだろうと予想はしていた。
予想はしていたが、やはり胸は痛んだ。

だが、そこからの紗夜香はすごかった。
晶に「アイドルやめて女優になろうかしら!?」と冗談めいた口調で言ったが、その後、マネージャーに「女優業をやってみないか?」 と言われ、その話に乗ってみようと挑戦すると、とんとん拍子で売れていった。
どうやら、苦い恋をしたというひとつの経験が幸を得たらしい。
いまや紗夜香は、大女優やトップ女優と言われるほどになった
昔は自由に選べなかった仕事が今では自由に選べれるようになり、服やバッグだって、かなり高価なものが買えるようになった。
だが、紗夜香はこの20年間恋をしていなかった。
誰かとの噂になったことはあるが、一緒にレストランに行っただけの仲である。
一人だけ、交際をしていないにも関わらず交際を認めたバカな男はいたが、そいつとはそれ以来一度もあっていない。
もう年齢は32歳。
結婚してもいいころだ・・・・
いや、遅いぐらいかもしれない。
でも、当分結婚できそうにはなかった。

余談ではあるが、紗夜香と同じで晶を好んでいたるりはあの後、若いうちに結婚し、子どもも生まれ、今はママさんアイドルとして活躍している。

紗夜香は窓から外を見た。
東京を一望できるのではないかと思うほどの高層マンションの最上階の一室、そこが紗夜香の家であった。
「紗夜香」
紗夜香を呼ぶ声がしたので、紗夜香は後ろを振り向いた。
マネージャーである。
「手紙、置いとくぞ」
紗夜香はそのいくつかある手紙をパラパラと見た。
ひとつの手紙が紗夜香の目に飛び込んできた。
その手紙にはこう書かれてある。

『市立小学校 同窓会のお知らせ』

よく今、こんな大女優になっているようなところにこんな手紙を出せたものである。どうせ、一か八か出してみようという考えなのだろう。
だいたい、当時は紗夜香を嫌ってる人のほうが多かった。
紗夜香はこの同窓会に参加したらどうなるだろうと考えた。
きっと、みんな自分には敬語である。
中にはサインをねだる人もいるだろう。
そして、それを見せて黒木紗夜華と同じ学校だったことを自慢するだろう。
いや、もうすでに卒業アルバムという証拠があるのだから、とっくに昔から自慢しているだろう。
そして、どんな子だった? と聞かれ、少し戸惑い、明るくいい子だったと嘘をつく人もいるかもしれない。

そこで急に、紗夜香は晶の存在を思い出した。今まで思い出さなかったのが不思議である。
もしかしたら、心のどこかで忘れようとしていたのかもしれない。
晶なら・・・晶ならどうだろう・・・・・
晶ならきっと、敬語ではなく、普通に話しかけてくれそうな気がする。
でも、きっとその隣では智恵子がいる。
もしかしたら、赤ん坊を抱きかかえてるかもしれない。
いや、晶と智恵子だけじゃない。
みんな同じ32歳。
結婚している人も多いだろう。
もしかしたら、結婚していないのは紗夜香だけかもしれない。
みんな結婚生活の話題になるかもしれない。
でも、晶に会いたい・・・・・・・でも・・・・・・

「まさか、その同窓会行く気か?」
手紙を見て考え事をしている紗夜香にマネージャーが言った。
先ほどからずっと同窓会のお知らせの手紙を手に持って見ているのだから、そう思っても無理はない。
「行くわけないじゃない。こんな庶民の集まり。セレブのパーティなら話は別だけど」
紗夜香はその手紙を破り捨てた。
日にちも場所も見ていない。
紗夜香は考えた。
もし行くとしたら自分はどのようにして行くだろう。
高級車で登場し、もちろん服はブランド物。
庶民を見下すかのように会場に入っていくだろう。
そんなの悪印象である。
かといって、地味な服装で行ったとしても印象が悪くなるだろう。
結局、晶とはもう会うことも話すこともなさそうである。
紗夜香はもう一度外を見た。
まるで東京一面を見渡してる気分である。
この中に、未来の結婚相手はいるのだろうかと考えながら、
紗夜香は涙を流した。
					
一人の想像だけで一話分作ったサイドストーリー。一つぐらい、こんなのもいいかな? と思いまして。 で、結局一番書きたかったのはるりのその後だったりします。るりファンの人ごめんなさい。 それと最後の終わり方、『未来の結婚相手はいるのだろうか』か『晶はいるのだろうか』かどっちにしようか迷ったのですが、結局、前者のほうにしました。