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浅間時矢編~浅間時矢のアタック大作戦~

浅間時矢は考えた。はたして、どうすれば自分の想い人である谷川光を自分に振り向かせることができるかどうか。
光のことを本気で好きだと思うようになってはや数ヶ月。
気づけば自然と光のことを思い出す。ドーナツを食べる時も、番鳥グッズを見かけた時も、さらには青葉のぞみを見かけた時まで、光のことを脳裏がよぎる。
浅間は自分が光のことを本気で好きだということを自覚するようになってから、何度かアプローチを試みたものの、うまくいった試しがなかった。
しまいには、「オレは健全な男だ!」と言われてしまう始末である。
そう、光は男だ。性的好みは女性だろう。だが、自分は男だ。だから、どう頑張ったって光を自分に振り向かせることができないのかもしれない。
そう思った浅間だったが、「いや、待てよ」、と独り言をつぶやき、思った。
「オレだって男なうえに、少し前まで好きになる相手は女だけと思っていたじゃないか」
そもそも、浅間自身、光を最初から男だと分かっていて好きになったわけではない。
最初は女の子だと思い込み、そして本気に好きになったのが光だったというだけだ。だが、光は男だった。
だけど、自分自身の光に対する思いは嘘じゃない。
だから、男だと知った今でも本気で好きだ。
ということはだ、「オレが、光を惚れさせるぐらいの女の子になればいいんじゃないか!」
浅間はそういう決断に至った。

そうとなれば話は早く、浅間はさっそくネットショップでウィッグやスカートなど、女の子になるために欠かせない道具を購入することにし、二日後に商品が到着した。
商品が到着した翌日の朝、浅間はさっそくウィッグやスカートを身につけ、光の通う旭小学校近くの公園で学校に登校する光を待ちぶせすることにした。
手には昨日の夜に心をこめて書いたラブレター。
内容は、デートのお誘いについて書かれており、日時と場所と一度でいいのでお付き合いくださいという旨の内容が書いてあり、偽名として『後山サキ』という名前を書いてある。
学校のロッカーに入れることも考えたが、関係者ではない自分が無断で立ち入ることは気が引け、さらには直接渡したほうが本気度が伝わると考え、直接渡すことにした。
光のことだ。デートのお誘いがあれば、一度だけならとOKするだろう。
しかし、一度でもデートに誘い込めればこちらのもの。養成所で培ったこの演技力で相手を惚れさせることはできるはずだ。
浅間はそう考えた。

「ママ、あそこに女の子の格好した男の人がいるー」

ふと、浅間の耳にそんな声が聞こえてきた。
春は女装したおじさんが出没するというが、こんな住宅街でもそんな男がいるとは。迷惑なやつだ。
そう思いながら、浅間は声のした方向に目をやった。
浅間の視線の先には、幼稚園らしき制服をきた5歳ぐらいの男の子が、右手を伸ばして指を指していた。浅間時矢のいる方向を。
「ダメでしょそんなこと言っちゃ。世の中には少なからずああいう子がいるものよ。さあ、早く幼稚園行くわよ」
子どもの母親らしき人は子どもにそう言いながら、明らかに早足でこの場を去っていった。
途端、強い風がふき、浅間のつけていたウィッグがずれた。

「駄目だ。あんな顔のあんな格好では、光を惚れさすなんて到底無理だ」
公園で光を待ち伏せしていた午後、仕事終わりの控室で浅間は頭を悩ませていた。
今朝、浅間は子どもとその母親が去った後に浅間は公園のトイレに入り、鏡で自分の顔を確認した。
そして、悟った。
この顔では無理だ・・・と。

浅間は男ということもあってか、メイクの仕方もよく分からず、自分をかわいくみせる方法なんてものを全くもって分かっていなかった。
ウィッグをつけてスカートをはけば自分だって女の子みたいになれる。
そんな風に浅間は思っていたが、そんなはずはなかったのだ。
だが、浅間は諦めていなかった。
メイクをすることによってかわいい女の子になれる可能性はまだ十分にある。
浅間はそう思ったが、はたしてどうすればいいのかがわからない。
「あいつに頼むしかない」
浅間はそう思い、ある控室の前に立ち止まり、扉をノックした。
『青葉のぞみ様』部屋のプレートにはそう書かれている。


一方、青葉のぞみは仕事が終わって控室に用意されていたファッション誌を読み、紅茶を飲んで休憩していた。
この後、小町さんが来るかもしれないのでそれまで少し時間をおいてから帰ろうとしていたのだ。
ファッション誌を読んでいると、ドアのノックの音がした。
小町さんかな?
のぞみはそう思ったが、扉のむこうからは、「オレだけど、入っていい?」という浅間時矢の声が聞こえてきた。
先ほどまで嫌々ながら一緒に雑誌の撮影をしていた仕事相手だ。
つい半年ほど前までは積極的に控室まで来て話しかけてくることはあったが、最近では控室にまで来て話しかけてくることはなくなった。
のぞみは迷ったものの、返事をして入ってきてもいいということを伝えた。
中に入ってきた浅間は周りを見渡してのぞみしかいないことを確認すると、開口一番こう言った。
「頼む。オレの恋に協力してくれ。」
いったい、いきなり何のことやらわからないのぞみは嫌悪感を示した。
「いきなり何の話? 恋って光のこと?」
「そう。光をオレに振り向かせるように協力してほしいんだ」
「そんなこと自分1人で考えなさいよ。小学校はどこか知ってるんだから、アプローチぐらい簡単でしょ」
「いや、そうじゃなくてさ・・・」
浅間は自分が光を好きになった経緯を話、そして光も好きになった相手が実は男だと知っても、そのまま好きでいてくれるんじゃないかという考えを伝えた。
しかし、今の自分には女の子になるメイクや女の子らしいファッションをしらない。
そのことを伝えると浅間は、
「だから、オレにのぞみのメイク術とファッションを伝授してほしい」
そう言った。
数秒の沈黙が訪れる。
「・・・ごめん、意味がわからない。」
沈黙を破ったのはのぞみであった。
「いや、だからさ、オレがかわいい女の子になって・・・」
「いや、それは分かったけど・・・、うーん・・・、なんとういうか、そんなので光があんたを好きになるのかって・・・」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないか。それにオレだって最初は光を女の子だと思って好きになり、男と分かった今でも好きなんだ。光だってそうかもしれないだろ?」
「いや、まあ、そうかもしれないけど・・・。光がそっちの世界にいかれちゃうのはちょっと・・・、なんていうか・・・」
――困る。
と言いかけて、のぞみは口にするのをやめた。そもそも、なぜ光が浅間のことを好きになったら困るのか、自分自身でもよく分からなかたからだ。
「お願いだよのぞみ。光を振り向かせるにはこの方法しかないんだ! なんでもいうこと聞くからさ」
のぞみは少し思い悩んだ末に、面白そうではあるし、まさか光がそんなことで浅間を好きになるとは思えない、と思い、「分かった」という返事をしようとした。
が、その直前に浅間はこう言った。
「そうだ! 協力してくれたらのぞみの月経痛がひどい時なんかに、仕事代わってあげるよ!!」

・・・・・・・・・

浅間は目を覚ました。
いつの間にか机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。
起き上がった途端、頭に激痛を感じた。一部記憶が飛んでいるような気もした。
まわりにのぞみの姿はないが、のぞみの控室であることは間違いなさそうだ。
どうやら、のぞみを怒らせてしまったらしい。
「光に代役を頼まなくなった今、『仕事を代わってあげる』という言葉はのぞみのプライドを傷つけてしまったか」
浅間はそうつぶやきながら、自分の言った言葉を反省した。
これで、のぞみに協力してもらうという選択肢は消えてしまったわけだ。
浅間は他に協力者になってもらえそうな人を考えた。
その時だった。ドアのノックの音がして、女性が入ってきた。
浅間はその女性に見覚えがあった。確か、のぞみを担当しているスタイリストの小町さんという人だ。
「あれ? 浅間くん? どうしてここに?」
「いや、ちょっとその、のぞみに相談をしてまして・・・」
「そうなの。のぞみちゃんはもう帰っちゃったのかな? 帰りに挨拶していこうと思ったのだけど」
「多分、帰っちゃったんじゃないかと」
ふと、浅間はひらめいた。小町さんに協力してもらえればいいんじゃないかと。
小町さんはスタイリスト。まさにメイクやファッションのプロフェッショナルじゃないかと。
ある意味、のぞみなんかよりも数段、頼りになる人物だ。
それに気づいたら、行動あるのみだ。浅間は小町さんに相談することにした。
「小町さん。お願いがあるんです」
「どうしたの? そんな真剣な表情で」
「オレ、好きな子ができたんです」
「えっ!?」
小町さんは顔を少し赤らめながら浅間の言葉に驚いた。
「オレ、そのコにどうしても振り向いてほしくて」
「そ、そう・・・。ということは、アタシのメイクでかっこ良くしてほしいということね。でも、浅間くんなら素のままで大丈夫だと思うけど」
小町さんのその言葉を聞いて浅間は少し首を横に振った。
「違うんです。オレの好きな子は、女の子が好きみたいなんです」
「えっ!?」
「だから、その子が好きになるぐらいオレもかわいい女の子になって、その子に振り向いてほしいんです」
「うーん。浅間くんの言いたいことは分かったけど、それってその子を騙しちゃうってことになるよ。仮にその子から好きになってもらえたとしても、浅間くんって気づかれた時点で今以上に嫌われちゃうんじゃないかな?」
「それは分かってます。覚悟のうえです。それに、オレだって最初は女の子だと思って接してきました。だけど、本当は男だって気づいた時、すごいショックだったけど、でもオレがその子を好きなことには嘘はないから、だからオレの好きな子にも好きにさえなってもらえれば、男か女かなんて関係ないと思えるんじゃないかって」
「そう。心は男の子だったのね。」
「だから、お願いします。オレをかわいい女の子にしてください」
浅間は腰を90度近く曲げて頭を下げた。
小町さんはしばしアゴに手をあてて悩んでいるような動作をし、目をつぶって何かを考え、10秒ほどしてから返事をした。
「分かったわ。浅間くんの恋を応援する」
「ありがとうございます!」

その日の週末、浅間はとある衣装室で小町さんにメイクをしてもらっていた。
結局、浅間が光に直接手渡すはずだった手紙は、浅間が一昨日、放課後の学校に忍び込み、『谷川』と書かれた下駄箱の中に手紙を入れておいた。
「それにしても、すごいわね、浅間くん。アタシも昔、浅間くんぐらいかっこいい人を好きになったことがあるんだけど、同性愛者って知って一気に冷めちゃったことがあるのよ」
「それは、お気の毒です」
「でも、それって私自身が結局本気じゃなかったってことなのかもって、こないだの浅間くんの話聞いてて思ったの」
「それは、違うと思いますよ。オレの話とは全然違います」
「そうね、男と女ではまた違うのかも」
「そうですよ」
小町さんは手際よく浅間にたいしてメイクを施していった。
浅間にはよく分からなかったが、チークというものを頬につけ、つけまつ毛をまぶたにつけていった。
唇にはグロスをつけ、ぷるぷるな唇になっていく。
時間にして20分。
「これで、どうかな?」
小町さんがそう言うと、浅間は鏡の前に立ち、目の前の鏡を見た。
そこには、どっからどう見ても女の子にしか見えない浅間の姿があった。
――イケル
浅間は心の中で確信した。

浅間は小町さんにお礼をいうと、すぐに手紙に書いた待ち合わせ場所に向かった。
浅間が待ち合わせ場所に到着し、時間を確認すると手紙に書いていた時間の5分前だった。
光はまだ来ていないらしい。
「ギリギリ間に合ったか」
浅間は光が来るのを楽しみしながら待った。
光が来たら一緒にドコに行こう? 遊園地か? 映画館か?
いや、でもやっぱり初めて一緒にデートしたドーナツ屋には行かなきゃいけないだろう。
早くこないかなぁ。
なんてことを考えていると、浅間の後ろから声がした。
「後山サキさん?」
来た。『後山サキ』という名前を知っているのは光しかいない。
ということは、今、その名前を言ったのは光なはずだ!
そう思って、浅間は後ろを振り返った。
「今日は、来てくれてありが・・・」
浅間がそう言いかけたところで、目の前の人物に気づいた。
その人物は、名刺を差し出しながら、こう言った。
「はじめまして、村崎ツトムです」
相手は、のぞみのマネージャー兼スカウトマンの村崎ツトムだった。
「えっと・・・」
「うん。確かにのぞみの言っていたとおり素質がありそうだ。キミ、アイドル志望なんだって?」
「いや、志望も何も今アイドル・・・」
「うんうん。その心意気は大事だよ。じゃあ、今からテストさせてもらうからついてきて」
「な・・・」
浅間はわけがわからず、村崎ツトムの後をついていくことになった。


話は戻って前日の夜。
青葉のぞみはファッション誌をよんで番鳥のクッションにもたれながらくつろいでいた。
その時、のぞみの携帯電話の音が鳴った。
のぞみは腕をのばしてベッドの上にころがっている携帯電話を手に取り、画面を確認した。
そこには『谷川光』と書かれてあった。
光るから電話なんて珍しい。
そう思いながら、のぞみは受信ボタンを押して電話にでることにした。
「もしもし、どうしたの?」
「実は、ちょっと相談があって・・・」
光の話によると、どうやら今朝、学校に着くと下駄箱の中にラブレターが入っていたらしい。差出人は知らない人だったようで、内容は明日のデートのお誘いだったという。
そして相談内容は、そのデートの待ち合わせの指定場所に行くかどうするか、行ったとしてどう対応すればいいかということだった。
「なんであたしがあんたの恋愛相談受けなきゃならないのよ!」
と、のぞみは少し怒ったような口調で光に言った。
「ごめん。考えた末、のぞみぐらいにしか相談する相手がいなくて。なすのにいうと校内中に広まりそうだし」
「そんなこと自分1人で考えなさいよ。」
のぞみが光にそう言ったところで、デジャブを感じた。最近にも同じようなことを言ったような気がしたからだ。
「どうしたの?」
「いや、なんか最近、似たようなことを誰かに言ったような気がして・・・」
のぞみはしばし思い返した。
数日ぐらい前に、こうやって恋愛相談を受けていて「そんなこと自分1人で考えなさいよ。」と言った記憶を。
「ねえ、そのラブレターの差出人ってなんて名前?」
「『後山サキ』って子らしい。うちの学校の子じゃないのは確かなんだよ」
「後山サキ、アトヤマサキ・・・。」
のぞみはしばしその名前を反芻して、考え、しばらくたつと、のぞみはうなだれた。
「ねえ光、その名前、ちょっと並び替えてみて」
「並び替える? サキ後山」
「そうじゃなくて、読みよ、読み。『ア・ト・ヤ・マ・サ・キ』を並び替えたら誰かの名前になるでしょ?」
「うーん。『ト・キ・ヤ・マ・ア・サ』、『時屋真麻』か! って誰?」
「知らないわよ! って、そうじゃないわよ!! 『ア・ト・ヤ・マ・サ・キ』を並び替えたら、『ア・サ・マ・ト・キ・ヤ』、『浅間時矢』になるでしょ!!」
「なっ!! 浅間? いやでも、浅間だったら顔も知ってるし、そもそも待ち合わせ場所に行って浅間だって分かったらすぐに逃げるけど・・・。それぐらい、浅間でも分かりそうだし」
「違うのよ、それがね・・・」
のぞみは先日の浅間とのやりとりを話した。
「・・・っていうわけなのよ」
「そ、そんな考えを・・・」
「あの後、何も言ってこないから諦めたと思ったんだけど・・・。いったい誰に協力してもらったんだか」
「うーん。浅間ということは分かったけど、結局どうすれば。ずっと待たせちゃうのは悪いし」
「お人好しね。あたしなら絶対に行かないけど。まあいいわ、ここはあたしに任せて」
「えっ? でも、のぞみに頼むのは悪いよ」
「いいのよいいのよ。あたしにいい考えがあるから」
電話を切ったのぞみは、村崎ツトムに電話をかけ、「後山サキっていう素質あるアイドル志望の女の子がいるんです」と言って浅間がデートの待ち合わせ場所と時間を伝えた。

その次の日、村崎ツトムがつれてきた後山サキという子を見て、のぞみは腹をかかえて笑ったようだ。
「なんで、こうなったんだ・・・」
浅間はわけもわからず、一人つぶやいた。
					
久々のSS。視点がのぞみと入れ替わってしまっているところが二箇所あるので、小説としてあまりいい書き方ではないかも(小説の書き方はちゃんと勉強したことないからよく分かってない)。
この話を思いついた時は、小町さんにメイクしてもらうところまでは思いついたのですが、最後の終わり方がなかなか思いつかず、書きながら考えました。そのため、少し無理やりな終わり方だったかも。まあ、コメディー小説として書いてるのでいっか。と思って・・・。