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第4話~謎の人物~

「はい、カット。お疲れ様です」
今日は、ドラマのクランクアップの日。
主役の男がイジメの主犯をつきとめ、虐めをなくそうと近づいたが洗脳されてしまい、その主役までもがイジメに加わるという、結局最後まで心が痛む内容のまま終わってしまった。
最近は、似たようなパターンが多いから・・・というのが監督の意見らしいが、さすがにこれはないだろ・・・と大室も思っているところである。
まあ、視聴率は、そこそこあるが・・・。
そんなことを考えなら、大室がボーっとつったていると、マヤと目が合った。
顔には泥。腕には怪我の痕に見せかけたメイク。
「お疲れ様。どうだったこのドラマは?」
「こういうドラマもいいんじゃないですか? 毒があって」
「毒があるほうが好きなのか?」
「キレイなものに飽きてきただけです」
この後は、打ち上げがあるらしい。
焼肉とのことだ。大室もマヤも参加するつもりである。

先日の話になる。
一度家に帰ると言ったマヤが大室の家を出て行った後、大室は一人のんびりテレビを見ていた。
これで、久々に家に一人だー。とか思っていたのだろう。しかし、数時間後にマヤは大室の家に帰ってきた。
驚愕する大室。
どうやら、大室はもうマヤはここに戻ってくることはないと思っていたらしい。
「家には帰ったのか?」
「近くまで行きましたけどね」
「何で帰らなかったんだ?」
「帰りたくなくなったからです」
「いつ家に帰るつもりだ?」
「もうちょっと立派に育ってからでいいんじゃないですか?」
いや、いいんじゃないですか? と言われても・・・
そんなことを思いながら、大室は視線をテレビに戻した。
先ほど見ていたテレビはいつのまにか終わっていた。

話を現在に戻す。
「大室さん、そのカルビとってください」
「・・・・・・」
いつの間にか肉をひっくり返したり、人に肉を渡す係になっている大室をよそに、回りは楽しく話していた。
今回のドラマで主役であった折田レオはマヤに謝っているようである。
「ごめん、大丈夫? 今日痛くなかった?」
「別に。何手加減してんの? とは思ったけど」
「ごめん・・・」
「そのごめんはどういう何にたいしてのごめん?」
「手加減しちゃってごめん・・・」
「・・・よくそんな気もちでドラマの主役なんかやってられるよね」
「・・・・・・」
「まあ、さっき映像見たとき、思ったより本気でやっているように見えたからそういう意味ではプロだけど」
「ありがとう」
マヤは先ほど大室がひっくり返したネギタン塩をとり、適当にタレをつけて食べた。
「それにしても、片橋さんすごい演技力ですよね。どこで教わったんですか?」
「教わったって?」
「演技の仕方ですよ」
「独学だけど」
「えっ?じゃあ、養成スクールとか行ってないんですか?」
「何それ? そんなのあるの?」
「えっ・・・はい、僕はそこで6年ほど」
「6年? 1年あれば充分でしょ」
「えっ?」
「大室さん、ロースお願いします」
「へいへい」
大室はまだ一口も口をつけていなかった。
しかし、まだ回りはわいわい話していた。
「そういえばあんた、前に誰かと付き合ってるとか噂なってなかったっけ?」
マヤはまだロースが口の中に入ってるというのに、折田レオにそう聞いた。
「あ・・・ああ、うん。去年破局しちゃったけどね。聞いてない? 去年結構大きくニュースでとりあげられたと思うんだけど」
「去年はあんまりテレビ見れなかったから」
「そうなんだ・・・」
「そのさ、よかったら僕と・・・」
「イヤ」
「そうだよね・・・」
「気をつけたほうがいいよ。自分が好きになっているという設定の役の人をすぐに好きになってしまう性格」
「いや、それは関係ないと思うんだけど」
「そう? 私がいじめっ子役だったら好きになってないでしょ?」
「そ、そんなことないと・・・」
「・・・・・・」
マヤは箸を鉄板近くまで持っきてこう言った。
「大室さん、代わりますよ。大室さんは食べてください」
「おお! お前もたまにはいいこと言ってくれるじゃないか。じゃあいただ・・・」
「おいおい、大室さん。女の子にそういう係やらせちゃダメでしょ」
「マネージャーだし、そういうことは大室さんがやるべきじゃない?」
結局なぜか大室が続けることになった。

数日後、今日は今度発売する写真集の撮影である。
「はーい。マヤちゃん、もうちょっと位置前に移動しようか」
業界内じゃあセクハラ親父と有名なカメラマンがマヤの肩を触れて前に移動させようとする。
とたん、マヤはカメラマンの腕を握り、睨みながら着き返した。
「気安く触ってんじゃねーよ」
このままいけば、マヤの腹黒い性格も業界内で有名になりそうである。
そんなこんなで今日の分の撮影は終了。今日の分の仕事も終了である。
「よくあのカメラマンも仕事やってられますよね。訴えられないんですか?」
「それなりに有名な人だからな。なかなか逆らえないんだろ」
「大室さんはそんなことしようとして失敗する人でしょうね」
「しねーよ」
そんな話をしながら、マヤは大室の車に向かっていたのだが、
「あっ!そうだ悪い。言うの忘れてた。俺今から行かなきゃいけないとこあるんだけど、一人で帰れるか?」
「人気アイドルを一人で帰らせる気ですか?」
「車の中で着替えろ。そしたらアイドルでもなんでもない一般人だろ」
しぶしぶマヤは服を着替え、男バージョンになった。
ここから駅までの方向はだいたい分かるし。迷ったとしても、携帯にGPS機能があるから大丈夫だろう。
そんなことを思いながら、マヤは大室の車の中で着替え、車を出た。
「悪いな。じゃあまた夜に」
「ああ」
そう言って、マヤは駅にむかって歩きだした。
途中電気店の前を通る。
ウィンドウのテレビにはマヤの姿が映っていた。
ふと、自分が数年前に好きだったアイドルを思い出す。
マヤが知らない間に引退してしまったらしい。
なぜ引退したのかマヤは知らない。
もしかしたら、自分のせいかもしれない。
そんなことを思いながら、駅に向かって再度歩き出した。

と、そのときである。
急に左腕に誰かに捕まれている感触を感じた。
「やっと見つけた」
聞いたことがある男の声が後ろから聞こえてくる。
マヤは反射的に左腕を振りほどき、駆け足で逃げた。
しかし、後ろの人物のほうが足が速く、すぐに追いつかれ、マヤはつかまってしまった。
「何すんだよ。テメーとはもう縁を切ったはずだぜ」
「お前がもっている自由はまだ半分だけだ。お前を完全に自由にしてしまったらオレも怒られちまうんでね」
「知るかよんなこと。それに言っただろ? 俺はもうあんなことしないってな」
「誰が信じられるかそんなこと」
「入院中、お前に嘘ついた覚えはないぜ」
「言うこときかねーヤツが何言ってんだよ。だいたい今どこにいるんだ? 家も帰らずに」
「テメーに言うことなんて何もねーよ。死ねぐらいの中傷だったらいくらでも言いたいけどね」
マヤがそう言ったとたん、その男は人に目立たない場所に移動した。
もちろん、マヤも無理やりつれて行かされる。
とたん、マヤを壁に押し付け、マヤの腹を殴った。
マヤはとたんに苦しい表情になる。
「もう一度殴られてえか?」
「先生がそんなことやっていいのかよ」
「テメーがやったことに比べれば何十倍もマシなことだけどな」
2年前のある事件がマヤの中でフラッシュバックした。
「これだから俺はお前の出所には反対だったんだよ」
「俺はもうあんなこと二度としねー。それは約束する。誰にも迷惑かけずに生きていく」
「じゃあ今お前が家にも帰らずに生活してんのは何でだ? 誰かに迷惑かけながら生活してんじゃねーのか?」
「その分、お礼はしてるんでね」
「お礼? どうやって、バイトでもしてんのか?」
「そんな感じだ」
「・・・とにかく一度家に帰る。分かったな?」
「・・・・・・」
マヤは何も言わなかった。
二人で、大きめの道に出る。
どうやら、タクシーが来るのを待っているらしい。
途中、近くで踏み切りの音が聞こえてきた。
と同時にマヤは走り出した。
「しまった!」
男はすぐにマヤを追いかけたが、マヤが踏み切りの向こう側に着いたときには、踏み切りがちょうど閉まったところだった。
マヤは体を180度方向転換して、男と目を合わす。最後にマヤは男にむかってこう言った。
「今度、俺の家族にあったらこう言っててくれ。今はまだお前らに合わせる立場じゃねーけど、できるだけすぐに帰るってな」
そう言い終わると同時に男の前を電車が通過した。
電車が過ぎ去ったあとにはマヤはそこにいなかった。
「ちくしょう・・・」
男は小さく嘆いた。
「あの殺人未遂野郎め・・・」
					
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