最終話~謎の解明~
2年前のことになる
片橋聖也は当時ファンだったアイドル、高橋由香の控え室にこっそり忍び寄っていた。
しかしそこから出てきたのは由香ではなく男子、しかも聖也が普段いじめている植田啓太であった。
つまり、高橋由香は植田啓太が女装した姿であった。
その後、怒りに満ちた聖也は啓太の後をつけ、人がいなくなった場所に来たところで声をかけた。
いつの間にか聖也は啓太の首をしめていた。
すぐに、人が通りかかって二人を離したのだが、もしその後も誰も通らなかったら啓太は死んでいただろう。
聖也はその後、殺人未遂という名目で少年院に預けられた。
「高橋由香はあいつと・・・植田と同一人物だったんだよ」
預けられた当初、聖也は反抗しながらそんなことを言った。
しかし、少年院の先生は、「やっぱり、人を殺す人間はどっか精神がいかれてるようだな」
そう言い、相手にしなかった。
聖也は最初2,3ヶ月は反抗的であった。
自分がここにいなければいけない理由が分からなかった。
半年たったころにはもうそんなことをしても無駄だと悟り、反抗的でなくなっていった。
しかし、同時にある決意をした。
ここを出たら、女アイドルになって売れてやる・・・と。
なぜそう思ったのか、聖也自身もよく分かっていない。
一番の理由は、ここを出て家に行ったとしても保護観察があるから完全に自由になるわけではない。
だから、完全に自由になるためにそうしようと思った。
また、復讐心からという理由もある。
自分も女アイドルになって由香と仲良くなって・・・
仲良くなっていって最後に正体を明かすと・・・そういう計画であった。
しかし、由香は事件後すぐにやめてしまったらしい。
やっぱりあいつは弱虫だ。
聖也はそれを知ったときそう思った。
そんな中、聖也は毎日毎日自由時間になると発声や演技の練習についやした。
回りの目など気にしていなかった。
ここに入院してからだいたい1年半がたってようやく退院ということになった。
最初の頃は、2年必要だといわれている時期もあったが、途中から院の先生のいうことをちゃんと聞くようになり、先生と会ったら挨拶もし、事件にたいしての反省もし、もう二度とこんなことはしないと誓い、半年早く退院することができた。
半分は演技である。
退院してからはすぐに大室の家にむかった。
だいたいの場所のめどはついていた。昔、大室がどの辺りに住んでいるのかテレビで見たことがあったからだ。
話を現在に戻す。
マヤ、本名片橋聖也の目の前には2年前に殺しそうになった植田啓太の姿があった。
すっかり声は変わっている。
まあ、当たり前だ。
聖也だってこの2年間の間に声変わりしたのだから。
見た目も啓太の面影は残っているが、すっかり男らしくなっている。
身長もかなり伸びたようだ。
これも、聖也と同じである。
ふと、先日見た夢を思い出した。
場所は聖也が啓太を殺そうとした場所。
そこを歩いていると啓太が急に首を絞めて、殺そうとしてきた。
今まさに、そんな状況になろうとしているのかもしれない。
そうじゃないにしても、ここはすぐに逃げるべきだろう。
そう思い、聖也は1歩後ろに下がるとすぐに体の方向を180度かえ、走り出した。
「待って!」
10歩ほど走ったところで、啓太がそう言った。
聖也は止まった。
自分でもなぜそうしたのか分からずに。
「ずっと探してたんだ・・・家に連絡しても帰ってきてないみたいだったから」
「何で探してたんだよ? 復讐か?」
「違う。僕は・・・その、ずっと謝りたくて」
「謝る?」
「高橋由香は僕だってずっと偽ってきたから・・・」
聖也はもう一度からだを180度回転させた。
そして、ヒザを地面につけたと思ったら、そのまま土下座した。
「あの時は、すまなかった」
人の視線が二人に集まる。
「お前は何も悪くない。許してくれとは言わない。でも俺は本当に反省している。それだけは信じてほしい」
「え・・・えっと、その、うん。信じるから、立って話そう」
二人は近くの公園にむかった。
ブランコに座る二人。
「退院してからどこにいたの?」
啓太がまず話しを切り出す。
「片橋マヤって知ってるか?」
啓太は先ほど、電気店のウィンドウで見たテレビを思い出す。
「うん」
「あれ、俺なんだ」
「えっ!?」
啓太が驚くのも無理はない。
今の聖也の声と、マヤの声は全く違うのだから。
「お前は? お前はこの2年間どうしてた?」
「どうしてたって・・・普通に生活してたけど・・・」
「いじめられたりしてないのか?」
「う・・・うん」
「そうか・・・よかったな」
話が止まる。
お互い気まずいのであろう。
元いじめっ子と元いじめられっ子なのだから。
「なあ植田。俺のこと探してたみたいだけど、怖くなかったのか?」
「えっ?」
「自分を殺そうとした人間を探すなんて怖くなかったのか?」
「それは・・・・・正直いうと、ちょっとはそりゃあ怖かったけど、やっぱり僕が悪いし」
「芸能界やめたのは何でだ?」
「あの事件が起こって、ファンの人に騙し続けることが辛くなって」
「でも、急にやめるっていってもファンを悲しませるだけだろ」
「いずれやめるということは決まってたから。声変わりも来るだろうし」
「俺はどうなるんだよ」
「それは・・・例外」
空は夕焼け色に染まってきた。
「そのさ、お前をいじめてた俺がこんなの言うのもなんだけど、友達になれねーかな?」
「えっ?」
「い・・・いや、なんでもねー。気にするな」
聖也はブランコから降りた。
「そういや今日は、髪切りに行くんだった。早くしねーと閉まっちゃうから・・・じゃあな」
聖也は一人、公園から出て行こうとした。
聖也の背中を見つめる啓太。
「できるよ」
聖也は夕焼けに照らされながら、後ろを振り向かずに手を横に振っていた。
次の日。
大室が事務所でアイドルのスケジュール調整などの作業をしていると、ノックの音がした。
でるとそこには男の子の姿。
「誰だ?・・・いや、何しに来たんだ?」
啓太である。身長も伸びて、少しは男らしくなり、弱弱しい雰囲気もだいぶなくなっていたので大室は一瞬、誰か分からなかった。
大室と啓太が合うのは実に2年ぶりとなる。高橋由香突然の引退と世間を騒がせたあの日からだ。
啓太は大室に会うなり頭を下げ、こう言った。
「高橋由香を復活させてください。お願いします」
んな無茶な・・・。
大室はそうは思いながらもマヤの例もあったし、一応聞いてみた。
「声変わりしてるみたいだが、女声は出せるのか?」
「高橋由香です!」
その声は本当に、男が女っぽい声を出そうとして出した、気持ち悪いオカマ声であった。
「金に困ってるのかもしれんが、無理だ。」
「ボイストレーニングも毎日、精一杯努力してがんばります。だから、この通りです」
「んなこと言われても・・・」
まあ、確かに由香が本当にいたらすぐにでも復活してほしいとは大室は思っていた。
由香が引退してから、復活希望の手紙が何通も寄せられ、2年たった今でもそれが途絶えないほどだ。
「授業をサボってばかりだった片山君も努力してできたんです。僕にもできると思うんです」
「誰だよ片山って?」
「えっ?・・・・・・。あの、えっと・・・。友達です」
なんだか「知らないの?」とでも言いたそうな驚いた顔を一瞬されたが、とりあえず大室は仕方なしに言った。
「半年、無料でレッスン受けさせてやる」
「あ、ありがとうございます」
と、その時女装姿のマヤが事務所に戻ってきた。
「な、何でお前がここにいんだよ」
「高橋由香を復活させようと思って」
「正気か?」
「うん」
大室は、頭の上に疑問符が乗っているような表情をし、とりあえず仕事に戻ることにした。
それから半年間、啓太は猛レッスンを繰り返し、なんとか女声を出せるようにまでになった。
由香の時の声とは少し違うが、女だって声変わりぐらいあるらしいので、2年半も見てない間に声色が少し変わっているところで、視聴者はそんなに気にならないだろう。
復活時に登場したバラエティー番組では、マヤも出演しており、由香は登場するなり「実はマヤの友達」と公言した。マヤには年齢不詳の謎設定があったというのに。
そして、時を同じくして、あまり笑うことのなかったマヤが笑うようになっていった。
それから半年たってようやく決心がついたような、先週マヤが実家に帰ったところだ。その時に本名を聞かされた。片山聖也。
「それは、覚えておいたほうがいいのか?」
「忘れてください」
「じゃあ、覚えておくよ」
聖也は、大室の家に来たときの服装で帰って行った。その間にも背が伸びていったので、すこし窮屈にも見える。
「またいつでも遊びに来いよ。肉じゃが作ってやるから」
聖也を見送った大室は部屋に戻り、家で一人テレビを見ていた。
ようやくゆったりできる。ふと、この年で一人暮らしというのもどうよ・・・と思うときはあるが、まあ、気楽にすごしていた。
ここを出て行く前に、聖也、つまりマヤはいろいろ大室に話していった。
ここに来る前はどこにいたのだとか、啓太との関わりだとか・・・。それにしても、本当に謎なヤツだった。
ふとそう思う。
ところで、今大室が見ているテレビはトーク番組。
「こいつら本当に楽しそうだな」
テレビには仲良く話している、マヤと由香の姿があった。
ピンポーン。と、インターホンの音が鳴る。
せっかく人がゆったりしてるというのに。と、心の中でグチを言いながら、大室は玄関にでてドアを開けた。
そこには初めて見る、超がついてもおかしくないイケメンの男が一人。
「いやぁ。家探したよ大室さん。事務所の場所しか知らないからさ。悪いけど住まわせてくれない? おふくろなくなって、家賃払えなくなってさ」
と、男は言う。
「とりあえずさ。俺また芸能人デビューしてみようと思うんだよ。芸名は考えてある」
「えっと、女のフリしてってことはないよね?」
「もうやらねーよ」
「それで、君の名前は?」
「松崎春樹だ」
大室は考えた。松崎春樹なんて知り合いがいただろうか? どうにも喋ってる様子から察するに、大室の事務所で女のフリしてデビューした経験があるらしい。
考えながら、大室は春樹を見た。
大室の事務所には現在、売れている男のアイドルやタレントがいない。
でも、この春樹なら、人気がでそうな気がすると。
「よし分かった。住まわせてやる」
結局、大室は一人でのんびり暮らせなかった。
少女少年IJIMEの続きです。でも、こちらも最終回のわけがわからないことに。
これでも、書き直したんですけどね。最後のはいるのかと言われそうですが、続きを書くわけでもなんでもありません。