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第1話~いじめられる日々~

「おい、お前昨日小遣い日だろ? さっさと渡しな」
植田啓太は片山聖也にそう言われ、ポケットに手を入れてお札を取り出し、渡した。
「さっさと渡せよ。ったく、相変わらず少ねーな」
聖也は啓太から受け取った、というより奪った千円札を見ながらそう言った。
啓太は顔を下に向けたまま、黙り込んでいた。
「黙ってねーで何とか言えよ。親にお願いして小遣いあげてもらいますとかぐらい言えるだろうが」
聖也は啓太の襟をつかみ、殴るポーズをとり、そう言う。
「わ、わ、分かった・・・言ってみる」
啓太はこわばり、震えながら言った。
「そうか、じゃあ来月は期待してるぜ」
聖也は啓太を強く押してからそう言った。
「よし、じゃあ竜雄、これでゲーセンにでも行くか」
聖也は、子分扱いをしている山田竜雄にそう言った。
「そうだな、500円ずつわけるか」
「何でそうなんだよ、俺が700円でお前が300円だろ」
「そ、そうだな」
「ったく、誰のおかげで1000円とれたと思ってんだよ」

ある日の、とある小学校の男子トイレの出来事である。
そこで、俗に言うカツアゲが行われたいた。
この3人にとってはいつものことである。
ひどい時には殴る蹴るなどの暴行になるときもあるが、傷つける場所は決まって服やズボンにかくれるような場所である。
もし、顔に傷をつけてしまったら先生にいじめているとばれているからだそうだ。
とは言っても、ほとんどの人は聖也が啓太をいじめてることは知っており、教師たちも見て見ぬふりをしている状況であった。
キンコンカンコンと、チャイムの音が鳴る。
「やっべ、予鈴だ。早く教室戻るぞ」
「あぁ」
聖也と竜雄はトイレから出て行った。
啓太はしばらくその場にいて、涙を流し終えてからとぼとぼ足で教室に戻った。

それから数日たった夜。
啓太は家でテレビを見ていた。
お笑い番組である。そんなに面白くなかった。
「けいたーー」
隣の部屋から姉の呼ぶ声が聞こえ、啓太はそちらに向かった。
「何?」
「ちょっとのど渇いたからコンビニでジュース買ってきて。お金渡すから」
啓太はそう言われ、お金を渡された。
「いや、でも・・・」
「何?何か文句あんの?」
「いや、ないです」
「じゃあすぐ行く、そんな、だらしない子嫌われるよ」
啓太はしかたなしにコンビニに行くことにした。
啓太の家の近くにはコンビニがあった。歩いて5分から10分で着くぐらいの所にある。
しかし、啓太は夜はできるだけそこに行かないようにしていた。
なぜかというと、そこは俗に言う不良とよばれるものがよくたむろっているからだ。
前に、そこでお金をとられたこともある。
啓太は願った、不良がコンビニにたむろっていませんように、と。
とりあえず、念のためコンビニの陰から様子を見たることにした。
残念ながら、その場所に不良たちはいた。
しかし、どうやら今回は先にからまれた人がいるようだ。
その被害者になりそうな人はだいたい、20代後半から30代前半の男性といったところだろうか。
「おい、おっさん今いくら持ってんだ?」
不良のリーダーと思われる人が、その男に問いかけた。
するとその男はそのリーダーの顔を見て、表情を変えるなり、こう言った。
「おぉ、久しぶり~お前こんなとこで何してんだよ?」
どうやら、そのリーダーと男は知り合い(?)のようだ
「はっ? 俺お前のことなんかしらねーよ」
リーダーが言った。
知り合いではないのだろうか?
「何だよ~よく小学生の時一緒に遊んだじゃねーか」
「はっ? お前俺より10歳は上だろうが」
「大人っぽいと言ってくれ」
不良のリーダーは混乱していた。
小学生のときの記憶を思い出して見てもこんな奴がいたかどうか思い出せなかった。
「リーダー、知り合いっすか?」
「えっ?い、いや・・・どっちだろ?」
するとその男はこう言った。
「何? お前不良やってんの? しかもリーダー? まさかあのお前がこんなふうになるとはな~」
「あ、ああ・・・・・」
「まあ俺も昔、荒れてた時期があったよ」
「そうか・・・・」
「まあ、知り合いの俺からはさすがに金取るなよ、その代わり今度食べに行こうぜ。おごってやるから」
そう言うと、その先客はメモとペンを取り出し、携帯の電話番号を書いた
「はい、これ俺の電話番号、いつでも電話してくれ」
「あ、ああ・・・・」
「じゃあな!また今度」
「ああ、じゃあな」
そう言って不良はコンビニと反対方向に歩きだした。
啓太はホッと胸をなでおろした。不良と出会わなくてよかったと。
啓太はコンビニの入り口に向かって歩き出した。
先ほどの男は不良の後姿を見ながら、まだ入り口の前にいた。
そして、その男との距離が1メートルほどのところに来たとき、男は啓太のほうを向いてこう言った。
「君さっきからじっと見てた?」
啓太はビックリした。まさか話しかけられるとは思っていなかったからだ。
「は、はい・・・」
啓太は思わず正直に答えてしまった。
言ってすぐに後悔した
見たことを絶対に誰にも話すなと脅されると思ったからである。
だが、予想は違って意外な言葉が返ってきた。
「俺の演技どうだった?」
どうやら先ほどのは演技だったらしい。
まあ、すこしはそんなことだろうとは思ったが。
「すごかったです」
「どうすごかったの?」
「不良に立ち向かえるところが・・・」
「いや、そういうこと聞いてるんじゃなくて、演技力だよ。俺の演技、演技っぽくなかった?」
「ちょっと、わざっとらしかったです・・・」
啓太はまた後先考えずに正直に答えた。
「じゃあ君の演技力はどうなんだよ?」
「いや、それは関係ないと思います」
「まあ下手だろな~だって見るからに学校でいじめられてそうだもん」
啓太は思わず、目を見開いてその男の顔を見た。
「どうして・・・・分かったんですか?」
「だから、顔に書いてあるって」
啓太はコンビニのガラスに映る自分の顔を見た。
そう言われれば、そう見えなくもない。
顔は女の子みたいな顔立ちで、背は低く、見ただけで弱弱しく感じる。
「そういうのは雰囲気のせいなんだ」
確かにそうかもしれない、啓太はそう思った。
「そこでだ、君、女の子として芸能界入ってみない?」
そう、もし女の子だったらいじめられずにすんだ・・・・・・
「へっ?」
「実は俺こういうもので」
そう言われ、啓太は名刺を渡された。太い字で『大室哲郎』と書かれていた。
名前ぐらいならたまにテレビで聞いたことがあった。
「確か、芸能事務所のプロデューサー・・・・でしたっけ?」
「そうそう、GGGに始まり、数々の売れっ子アイドルやタレントを出してきたあのプロデューサーだよ」
「いや、でも芸能界に入るつもりはまったくないんで・・・」
「自分を変えるチャンスだぜ!! 自分を変えたらいじめられなくなるかもしれないしな」
「そんな簡単にいくとは思えないんですけど・・・」
「バカヤロー。そういう弱弱しい面がダメなんだろうが」
「でも、なんで女として」
「それはカツラかぶって女の子っぽくするんだよ」
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて、どうして女の子として?」
「それは、今探してるのが女の子タレントだからだ」
しばらく沈黙。
「いや、それなら他に、芸能界に入りたがってる女の子いるだろうからそういう子をスカウトして」
「本当にそれでいいのか? 後悔してもしらねーぞ、あのときに芸能界に入っとけばいじめられなくなったのにって」
「いや、そんなことはないと思いますが」
「とりあえず君の名前を聞いておこうか」
「・・・・植田啓太です」
「うえだけいた・・・た・・・・た・・・・高橋・・・・由香でいっか」
「いや、いっかって何ですか?」
「じゃあ決定で」
「えっ?」
「今度の日曜日、事務所に来て。名刺に書いてあるから」
「いや、だから・・・」
「心配しないで、カツラはこっちで用意するから」
「そういうことじゃなくて・・・」
「来なかったら承知しねーぞ」
「・・・・・・・・はい」
					
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