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第3話~どこにでもあるイジメ~

「うわっ!!これすげー!大胆!!」
「うまく撮れてるな。これなんて一歩危なけりゃパンツ見えてるぞ」
「ったく、カメラマンも男だろうからもっと見えるように撮れってーの」
先ほどから聖也と竜雄が高橋由香の写真集を見ながら話し合っている。
近くにいる啓太は気になって気になってしょうがない。
なので、たまにチラッとその二人のほうを見てしまうのである。
「何見てんだよ!!」
「ご、ごめんなさい」
そう言って、啓太はすぐさま違う方を向いた。

啓太は由香の写真集の撮影をしていたときのことを思い出した。
確か、あのときは大室に乗せられ&脅され、少しやりすぎたような気がする・・・
「男なんだから、そんな恥ずかしがることじゃないだろ」
「いや、男だから恥ずかしいと思うんですが・・・」
「分かってんのかお前? この写真集の撮影を断ったらどうなるか。そのせいでうちの事務所つぶれたら、どうするんだよ」
「うぅ・・・。やります。やりますから・・・」
そんな会話を大室と繰り広げていたような気がする。

「そういえばさ」
竜雄が聖也に話しかけた
「高橋由香と植田ってちょっと似てねー?」
啓太は背筋が凍りつくような感じを覚えた。
「気色わりーこと言うんじゃねーよ!!」
「わ・・・悪い」
啓太はまだ先ほどの凍りつくような感じがおさまっていなかった。
心臓が止まるかと思った。

数日後
「大室さん、大変なことになってしまったんです」
「どうした?」
「実は、いじめてくる子が由香のファンになってしまったらしくて」
「・・・・お前、まだいじめられてんの?」
「・・・・はい」
「あれ~? おかしいな~? オレの計算ではもうとっくにいじめられなくなっててもいいはずなんだが」
「いや、そうはならないとは思ってましたけど」
「それで、何だ? ファンだからどうした?」
「えっ?だってそれって、危なくないですか? バレてしまったら殺されるかも」
「・・・それはその子がファンじゃなくても同じだって」
「いや、じゃあなおさら」
「とにかく、今から仕事だ。今はそのことに専念しろ」
「・・・・はい」
しぶしぶ由香は返事をし、二人は車に乗って仕事場に向かった
今日は初めてのドラマの撮影である。
連続ドラマであるが、由香が出るのは第4話のゲストっぽい役だ。
「今日は、よろしくお願いします」
由香は一通り挨拶をした。
その中に一人、こないだのCMオーディションに参加していた女の子がいた。
確か、名前は小川美央(おがわみお)
「よろしくお願いします」
由香はその子にも挨拶したが、その子はそっぽを向いた。
「では、撮影始めますんで、みなさん位置についてください」
スタッフの声が聞こえた
由香は位置につき、スタンバイした。
撮影は順調に進んだ。
由香は自分でも上出来だと思うほどよくできたと思った。
それどころか、カメラマンやプロデューサーの人たちにもいろいろ褒めてもらえた。
「えっ? 本当にドラマ初めて? すごいな~」
「あの大室さんは性格と見た目のわりに、見る目あるからな~」
「最終回にまた出てもらえないかな?」
と、こんな感じである。
しかし、そのたびに鋭い視線を感じていた。美央からである。
なんとなく、由香は恐怖じみたものを感じたが、人見知りな由香は話しかけることもできなかった。

その後も撮影は順調に進み、2時間ほどして今日の分の撮影が終了した。
由香はまずトイレに向かった
今まで何回か女子トイレには入ったらが、やはり未だに女子トイレに入るのは気が引ける。
だが、尿意には勝てないため、すぐに由香はトイレの個室に入った。
すると、すぐに誰かもトイレに入ってきたことが分かった。
一瞬ノックされたと思ったが、そうではないらしい。
その後、蛇口のひねる音と、水がでる音がしてきた。どうやら、水をだしているようだ。
バケツに入れてる?
ちょうど掃除の人が来たのだろか?
そう思いながら、由香は用を済まし、個室から出ようとした。
が、鍵を開けたにもかかわらず開かない。
何か引っかかってる?
と思った、そのとき、
上から大量の水が由香を襲った
その後、トイレにいたであろう人はすぐに出て行った様子だった。
ここでもか。由香はふとそう思った。
学校でも何度かトイレに閉じ込められたあげく、水をかけられたことがあった。
ちょうど授業が始まる頃で、泣いて叫んで助けを求めても、授業が終わる1時間、誰も助けがこなかった。
ようやく次の休み時間にトイレに入ってきた人に助けてもらって、教室に戻ると、聖也は笑いながら啓太に言った。
「雨の中授業サボって楽しかった?」
ただ、今はそんなことを思い出していても仕方がない。
由香はびしょびしょの体で、なんとかしてここから出ようとした。
力づくでドアを押しても無理、上にのぼろうとするが由香の身長と運動神経では無理であった。
「誰か、誰か助けてください!!」
由香は叫んだ。精一杯の声で叫んだ。

3分ほどたってからだろうか、誰かの足音がこちらに近づいてきてドアが開いた。
「どうしたんだお前?」
由香を助けたのは大室であった。
「お・・・・大室さん・・・・」
由香は泣いていた。
だが、びしょ濡れなため、どれが涙か水かは大室には分からなかった。
「悪かったな、俺がついていながら」
「大室さん・・・・」
「どした?」
「衣装がぬれちゃいました」
「・・・・・そんなこと心配してる場合じゃないだろ」
由香はその後、体を拭き、服をかわかした。撮影が終了していたのがせめてもの救いだった。

いじめ・・・・それはどこにでもあるものなのかもしれない。
数日後は、靴に画びょうが入れられていた。
そのまた数日後は、由香のカバンの中身をぐちゃぐちゃにされていた。
すべて決まって、美央と同じ仕事の日。
「お前運いいな。そこまでされて男だってバレてないんだから」
「運いいわけないじゃないですか!!」
「そうそう、このペットボトルのお茶、スタッフからもらっからお前にやる」
「・・・・ありがとうございます」
「じゃあ今日は帰れ」
「送ってくれないんですか?」
「悪い、俺この後ほかのヤツの面倒見なきゃならねーんだよ。じゃ、そういうことで」
と言いながら、大室は由香のもとを去った。
由香はしかたなく、帰ることにした。
今日もまた、美央と同じ仕事であった。しかし、今日は何も起きていない。
多分、いじめてるのは美央であろう。それは、なんとなく由香も分かっていた。
だが、美央の場合、聖也よりもタチが悪いかもしれない。自分だと分からせないようにやっているのだから。証拠だってあるわけじゃない。
何秒か歩いていると、大きい階段通りに出た。
ここから落ちたら怪我どころではすまないかもしれない。
と思いながら、階段から降りようとした。
すると、「うちの子になんか用?」と後ろから声が聞こえてきた。
由香は後ろを振り向いた。
そこには、由香を押そうとしている美央と大室がいた。
大室は美央に言った。
「何をしようとしてたか詳しく聞かせてもらおうか?」
「な・・・何って・・・・別に・・・何も・・・」
「お前だろ?由香をいじめてたのは?」
美央はしばらく黙り、威張った感じで言った。
「そうよ」
大室はしばらく美央の顔を見てからこう言った。
「思ったより素直だな。理由を聞かせてもらおうか?」
「別に、芸能界の厳しさ教えてただけよ」
「へ~厳しさね~」
「ただ、やめてって言ってこないからもうちょっと大胆にやっちゃおうかな~? って思っただけよ」
大室と由香は黙っていた。やめてって言ってこないって、自分からやっているということを隠しておいてよく言えたものだと思った。
「どうせ、学校でいじめられてるんでしょ。そんな雰囲気だし。慣れてるだろうからこれぐらいたいしたことないんじゃない」
美央は由香にむかってそう言った。つづけて、美央は言う。
「だいたいむかつくのよ。急にCMに出だしたと思ったら急に売れ出して」

そのとき、美央は顔に水のようなものがかかった感覚を覚えた。
由香はいつの間にか、ペットボトルをとりだし、ふたを開け、美央の顔にむけていたのだ。
「何すんのよ!!」
美央は由香にむかって怒鳴った。
「それはこっちの台詞です!!」
由香も美央にむかって怒鳴った。
美央は一瞬、ビックリした。
「もうやめてください・・・」
その場は少し静かになった。
「確かに、あなたの言うとおり、学校ではいじめられてます。でも、だからここでは楽しく生きたいんです」
美央は黙っている。
「お願いします・・・私の楽しさを・・・奪わないでください」
「奪ったのはそっちじゃない! 泥棒みたいに私の仕事奪って」
と美央が言うと、大室は美央の腕をつかみ、言った
「自分が由香よりも実力ないことを理解したらどうだ?」
「な・・・!」
「君はかわいいから売れてるんだよ。実力なんてない」
「そ・・・それぐらい分かってるわよ!! 分かってるけど・・・悔しいのよ」
「・・・・じゃあ観念してあきらめるんだな」
「・・・・・・分かったわよ。もうやらない、それでいいんでしょ?」
「じゃあ、由香の平手一発で許してやる」
「えっ? ちょ、ちょっと大室さん」
美央はしばらく黙って、口を食いしばり、行った。
「・・・・・分かりました」
美央は目を瞑って、由香とむかいあった。
顔はどこかこわばってる感じが伺える。
「何してんだよ、早く叩けって」
大室は由香にそう言った。
そんなこと言われても・・・。と由香は思った。
由香は美央の顔をもう一度よく見て、こう言った
「できるわけないじゃないですか」
由香は続ける。
「私は叩かれたときの痛さをよく知ってるつもりです。だから、できないです」
そう、由香は言った。
すると、急に美央は泣き出し、「ごめんなさい、ごめんなさい」と、泣きながら何度も謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」

「お前、思ったよりは強いじゃねえか」
大室は車の運転席から、後ろで着替えている啓太にそう言った。
「大室さんこそ、今日の演技よかったですよ」
「今日は演技じゃねーよ」
「それより、ほかの人の面倒見なきゃならないって言ってませんでした?」
「ああ、なくなったよ。別に元からなかったわけじゃないぞ」
啓太はそれを聞き、なぜか笑った。
「大室さん」
「何だ?」
「ありがとうございます」
大室は少しだけバックミラーに映る啓太を見た。
「・・・どういたしまして」
大室は車のスピードを少し上げた。
					
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