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第5話~ぶら下がった縄~

「どうしてこんなことしたの!!」
会議室。担任の先生は啓太と聖也の二人・・というより聖也にむかって怒鳴った。
今回の聖也は手加減なしであった。
啓太の顔は怪我をし、アザもできている。
腕も背中も足も・・・・
「分かってるの片山君?これは暴力。犯罪よ!!」
しばらくしてから聖也は答えた。
「・・・オレは悪くねーよ」
つづける。
「こいつがオレを殴ろうとしたからその前にやっただけだよ。正当防衛だろ?」
先生は啓太の顔を見、言った。
「本当なの?」
啓太は泣きながら言った。
「本当です。僕が・・・・僕が悪いんです・・・・僕が・・・・」
啓太は震えていた。

それから1ヶ月がすぎたある平日の昼。
啓太は家にいた。
あれから学校に行かず、仕事にも行っていない。
ずっと引きこもっている。
あの日、帰ってきて、さすがに今回は目に見える傷があったので、母親にどうしたの? とたずねられた。
しかし、啓太は何も言わず、部屋に入っていった。
啓太はまた部屋で泣いた。もう涙はでなかったが・・・。
啓太の母親は啓太が引きこもっていることついてに何も言わなかった。
「じゃあ、買い物行ってくるから」
そう言って、母親は家を出て行った。
啓太は返事をしなかった。

ただ、啓太は母親が家を出ていくのが分かると立ち上がり、縄跳びの縄を持って風呂場に行った。
その天井にはハンガーをかけるところがあり、そこに縄を通し、がっちり固定し、下に輪を作った。
啓太は今から首吊り自殺をしようと考えていた。
この1ヶ月、啓太はそのことばかり考えていた。
いつ実行しようか、どこで実行しようか・・・・と。
啓太はゆっくり椅子にのぼった。

ふと、啓太は考えた。
自分が死んだら困る人はいるだろうか・・・と。
聖也にしてみりゃストレス発散の相手がいなくなって困るかもしれない。
姉もパシリの相手がいなくなって困るかもしれない。
でも、啓太自身、それはいやだった。
それに、自分がいなくなったら少しは家計が楽になるだろう。
自分なんか死んだ方がマシだし、自分自身死んでしまいたい。
そう思いながら、縄を首のところまでやり、椅子から足を離そうとした
そのときだ。
ピンポーンと、インターホンの音が鳴った。
ピンポンピンポンピンポン
連続でインターホンが鳴った。
出たほうがいいのだろうか?
啓太は一瞬そう思ったが、今やめたらもうずっとできなくなりそうなので続けることにした。
だが、インターホンの音が気になってなかなか実行できない。
しばらくすると、インターホンの音がやみドアをドンドン叩く音が聞こえ、その人物は言った。
「ちょっと植田さん!いるのは分かってるんですよ!! こっちだって仕事なんですから!!」
あの声は大室である。
そこで、啓太は思い出した。
自分が、高橋由香でもあることを・・・
啓太が死ぬということは、由香も死ぬということになり、そうすると日本全国のファンを悲しませることになるかもしれない。
啓太はゆっくりと風呂場から出て行き、玄関のドアを開けた。
「テメー何やってんだよ!! 1週間は休みの許可やったが、1ヶ月もやった覚えはないぞ!!」
大室は怒鳴った。
啓太は泣きながらこう言った。
「ありがとうございます・・・・ありがとうございます・・・大室さん」
「ちょ・・・何で泣いてんだよ?」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
啓太は大室の胸にもたれながら泣いた。
大室は黙っていた。

次の日、啓太は勇気を出して学校に行った。
啓太がクラスに入ると、まわりは一瞬静かになり、ざわめき始めたが、気にせず席に座った。
聖也は啓太を見て笑っているようであった。
啓太がいなかったこの1ヶ月、聖也と竜雄は啓太の代わりとなるターゲットを変えていた。
そのため、啓太もまた少しイジメられるようにはなったが、前よりはマシになった。
また、由香のほうは事故で交通事故にあい、病院の方に迷惑をかけたくないということでマスコミに発表しなかった。
と、いうことになった。
由香はすぐに前のような芸能生活・・・いや、前よりも楽しく芸能生活をやっていた。
啓太のほうも、学校ですこし笑うようになり、クラスメートともすこしずつ話すようになった。
なぜか、前は面白いと感じなかったお笑い番組がすごく面白く感じる。
そんな毎日を送るようになった。

「お前の人気も急上昇してきて、オレもウハウハ」
と、大室は横にいる由香に言った
「じゃあ今度おごってくださいよ。焼肉とか」
「それぐらいちょろいちょろい」
「あの~そろそろ時間なんで、準備してもらえますか?」
「はい」
今日は由香の握手会の日である。会場に行くと大勢の客がいた。
「今日は来てくれてありがとう」と笑顔で言いながら握手をする。
そのような感じで、1時間ほどが経過した。
ふと、由香の目にある人物が映った。
聖也と竜雄である。
イジメが少なくなったとはいえ、恐怖心が全く消えたわけではない。
でも、握手しないわけにもいかないので他の客と同様、
「今日は来てくれてありがとう」と笑顔で言いながら握手をした。
少し、鼓動が早くなった。
しかし、握手などすぐにすむもの、数秒もかからないうちに二人は出口に向かって行った。
それから何分かしてようやく握手会は終了した。

そのころ、聖也と竜雄はまだ会場の近くにいた。
「なあ、もうそろそろ握手会終わったかな?」
「そうじゃないか?それぐらいの時間だし」
聖也はニヤついた。
「なあなあ、高橋由香の後ついていって、家探ろうぜ」
「それはさすがにまずいだろ。やめとけ」
聖也は、その竜雄の言葉にムカッときた。
「はぁ?オレがやろうって言ってんだ。行くぞ」
「イヤだって言ってんだろ!犯罪だぜ」
聖也は竜雄を突き飛ばした。
「この弱虫が。テメーとなんか縁切ってやるよ」
「ああ、そうしろよ」
そう言って、聖也は一人で由香の控え室に向かった。
実は言うと、竜雄はこないだからいつかは縁を切ろうと思っていた。
竜雄は、ずっと聖也は自分より強い人間だと思っていた。
しかし、こないだ風邪で休んだときのこと、つまり聖也と啓太がトイレで揉め事があったとき、
トイレの近くにいた人から竜雄はそのときのことを聞いた。
その人は、こう言っていた。
「二人がトイレに入った後、片山のおびえる声が聞こえて、・・・・・」
竜雄はそのとき、一瞬耳を疑った。
だが、そんなことを間違えて聞こえるはずがない。
そして、竜雄は考えた。
運動神経のいい自分と、体育の授業をよくサボってる聖也とどちらが力があるか・・・
竜雄はいったん後ろを振り向いた。
もう聖也の背中は見えなかった。
あんなやつ、さっさと死ねばいいのに・・・・。
そう思いながら、竜雄は家に帰っていった。

いっぽう、由香と大室は控え室にいた
「お前やっぱすごいわ。あんなに大勢のなかで表情ひとつ変えずやり続けるなんて」
大室はこぶしを作り、由香の胸に押し当てて言った。
「お前ぐらい心の強い人間は初めてだぜ」
決まった! という感じか?こぶしを作っている逆の手はガッツポーズをしていた
由香は笑いながら、啓太の服装に着替えた。
「・・・・人気ですぎ!!ってぐらい人気だよな」
「そう言ってもらえると、うれしいですね」
「・・・・お前もそのうち声変わりするんだろうな」
「・・・・そうですね」
大室と啓太は寂しい顔をした。
「それまで一緒にがんばろうぜ」
「はい」
大室はいったん控え室から外に出て、辺りを見、誰もいないことを確認すると。
「大丈夫、誰もいないから」と啓太につげ、啓太を帰らせた。
啓太は、ここから家までは近いので、歩いて帰ることにした。
しばらくして、人通りが少ないところに出て、どこからか啓太を呼び止める声がした。
「おいっ!植田!!」
すぐさま啓太は後ろを振り向いた。
そこには、聖也がいた。
学校内ならともかく、こんなところで・・・・と思った。
そして、聖也は啓太が予想もつかない言葉を発した。
「テメーがなんで高橋由香の控え室から出てくんだよ」
					
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