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第4話~反撃~

美央からのイジメがなくなってから1ヶ月がすぎた。
あれから、美央とも仲良くなり、今ではアイドルの中で一番の友だちである。
しかし、学校でのイジメは相変わらず続いていた。
一度、啓太は美央に言ったことを同じように聖也に言ってみたが、「ふざけたこと言ってんじゃねーよ」と言われ、よけいにイジメられるようになった。
体につくアザも増えていった。が、聖也なりの配慮か、アザがつくところはすべて衣服で隠れるところであった。
それだけがまだ啓太にとって救いであった。
水着姿になる仕事が来ても仕事は来ないかもしれないが、顔に怪我なんてできたら、芸能界やっていけないのだから。
アイドルは顔が命・・・・基本文句である。

ある昼休みのこと。
啓太は音楽の先生に資料を会議室まで運んでくれと頼まれたので、会議室まで足を運ぶことになった。
しばらく歩き、会議室まで来ると、誰かが中で話しているようであった。
声から察すると、担任の先生と竜雄である。
「あなた、植田君に何をしてるの?」
「別に、何もしてねーよ」
「本当のことを言いなさい。植田君からお金とったり蹴ったり殴ったりしてるんでしょ?」
「何だそれ?植田のヤツがそう言ったのか?」
「名前はいえないけど、ほかの人がそうやってるのを見たと言ってるのよ」
「・・・・オレは悪くねーよ。悪いのは全部片山だ。オレはその後ろにいるだけさ」
「どうしてそんなことするの?イジメなんてするなって言うのが本当の友だちでしょ」
「オレはただイジメのターゲットにならねーように、あいつの子分役になってるだけさ」
「で・・・・でも、そんなことしちゃいけないのよ。分かるでしょ?」
「ああ、分かってるよ。オレだって本当はこんなことしたくねーんだよ」
竜雄はそう言うとサッと立ち上がった
「話はそれだけだろ? 教室もどる」
竜雄はいつもより少し早足で扉の前まで歩き、扉を開けた。
そこには、啓太がいた。
「どけよ」
そう言われ、啓太は少し下がり、竜雄は教室まで戻ろうとした。
が、3メートルほど離れて竜雄は振り返って言った。
「今の話聞いてたんだろ?」
啓太はゆっくりうなずく。
「じゃあ、オレのことは恨むなよ」
そう言って、竜雄は教室に戻っていった。
啓太はしばらくその背中を見ていた。
それから、啓太に対する竜雄のイメージはすこしよくなったが、やはり怖かった。

「大室さんってイジメたり、イジメられたりしたことありますか?」
由香は控え室で大室に聞いた。
「どうだったかな~?オレはイジメをやめさせる人間だったな。うん、そうだ。さすがオレ」
由香は遠い目で大室を見、すぐに目をそらした。
「まさか、まだお前イジメられてんのか? 前に小川美央に言ったように言えばいいじゃねーか」
「言いましたよ。そしたら逆にひどくなりました・・・・」
「・・・・大変だなお前。よく学校に行ってるよ」
「自分でもそう思います」
控え室は暗い空気に包まれた。
「そういえば、お前にぴったしの仕事の依頼が来てるんだけど」
「ぴったし?」
「お前あれ知ってる? えっと、何だっけかな?名前忘れたが、高校生と芸能人が話し合う番組」
「・・・たまに見ますけど・・・話すの苦手ですよ」
「違う違う、そういうのでピッタシって言ったんじゃなくてそのときのテーマがお前にピッタシなんだよ」
「何なんですか?」
「・・・・ごめん、忘れた」
「・・・・ボケてきてますね」
「うるさい!!オレはまだそんな年じゃねーよ」

数日後、その番組の収録が行われる日がやってきた。
テーマは『いじめ問題』
由香にとって、台本がない番組は初めてであるから少し不安である。
とりあえず、由香は位置についた。
周りには新人からベテランまでの芸能人。
反対側には一般の高校生が座っていた。
高校生の集団の中には、いわゆるギャルと呼ばれる人や、見ただけで勉強ができると分かる人、ほかに、オタクっぽい人や、スポーツが得意そうな人までさまざまな人がいる。
もちろん、芸能人側もベテラン俳優、歌手、お笑い芸人とこちらもさまざまであった。
この集団の中では由香が一番年下である。
しばらくして、全員が位置につき、収録が始まった。
「今日は、いじめがテーマで話していきたいと思います」と、進行役のアナウンサーが言った。
「イジメはいじめる側が悪いのか、いじめられる側が悪いのかということなんですが」
「そりゃあ、いじめる側が悪いでしょ。こんなの討論するまでもない」
「場合によっちゃあいじめられる側も悪いっしょ」
「たとえば?」
「たとえば、テストの点数をバカにしたり」
「その時点でその人自身がいじめてる側になるんじゃないかな?」
「それに、そんなことでいじめになるのがまず間違ってるんじゃないかな?」
「ってかさ、いじめって雰囲気で起こるもんだと思うんだよね」
「そうそう、その雰囲気を作ってるいじめられっ子が悪いっしょ」
「まあ、いじめられっ子って結構、性格同じ感じだしね」
「いじめられる前にみんなと仲良くしようとしちゃあイジメなんて起こらないし」
「そんなことが簡単にできるわけがないだろうが」
「逆にそれがいじめの原因になるかもしれないしね」
「ほかにイジメが起こる原因といえばあれだよ。自分の言うとおりにいかないとか」
「そうそう、それむかつくよね。指示してるだけなのにちゃんとそのとおり動かないで、私が怒られるんだよ」
「そこからいじめの発生・・・それはちょっといじめられる側にも責任があるかもね」
「そこでケンカぐらいならまだ分かるけど、いじめはやっぱりダメだよ」
と、いろいろ意見が発せられていた。
由香は何を言ったらいいのか、たとえ言いたいことがあってもどのタイミングで言っていいのか分からずジッと黙っていた。
由香に言わせりゃあ、イジメなんていじめるほうが悪い。
聖也にいじめられたのも何の前触れもなく始まった。
うらまれることをした覚えなどいっさいない。
「では、次に第3者について。アンケートをとったところ、関わらないようにしたというのがダントツで1位です」
「まあ、そうだろうね。ほかにはどういったことを言ってる人がいたの?」
「他には後でいじめられっ子を慰めた、やめるように言った、中にはいじめに参加したという人もいました」
「オレはイジメに参加するタイプかな?やめるように言ったら自分までいじめられるかもしれないしね」
「私はやっぱり見てみぬフリですね。心苦しいですけど」
「僕は昔いじめられた経験があるんですけど、ほとんどの人が見てみぬフリでした」
「そのとき、その第3者にどうしてほしいって思った?」
「そうですね。やっぱり助けてほしい・・・ですかね」
「まあ、普通そうだろうね。後で慰めたり」
「いや、それは逆にいやです。見てみぬフリした後に慰めにくるってむかつきますね」
「オレとしては第3者は先生に言うべきだと思うな。学校でイジメが起こってればの話だけど」
「それ以前にまず先生がクラスをもっとよく理解しとくべきだろ」
と、またまた由香は何も言わず、意見が進行していった。
今の内容から察するに、竜雄は第3者なのかもしれない。
由香にとっちゃあ、やはり第3者はすぐにでも助けるべきである。というより、そうしてほしい。
自分にはそんなことできないが・・・・と思っていた。
「さて、最後にいじめをやめさせるには」
「第3者が先生に言うべきじゃないかな?」
「いや、そんなことでいじめが収まったら苦労はしないだろ」
「まず、先生がもっと生徒同士を仲良くさせるために努力するとか」
「バーカ、それがいじめの原因になることだってあるんだよ」
「ってか、まず見られないようにやってるいじめってのもあるわけじゃん。第3者に分からないように」
「そうそう、そういうときはやっぱりいじめられてる側がはっきり、やめてって言わないと」
「それで、おさまったらいいんだけどな。それでおさまらないときもあるだろ」
「やっぱり、いじめられてる側が先生や親に相談すべきじゃないか?」
「でもそれで、お前チクんなよ! ってよけいにいじめにあうかもしれないよ」
またまた、進行は進んでいく。
聖也のことだ。どれをやっても、いじめがおさまりそうにない。由香はそう思った。
それより、今までひと言も由香は話に参加していない。
この調子じゃあ、最後まで何も話さないまま終わりそうだ。それじゃあただの給料泥棒だ。何か話さなきゃいけないような気がする。
と、そのとき、高校生代表の一人が言った。
「私は、やり返すのが一番いいと思います」
由香はつばを飲み込んでから、言った。
「やりかえす?」
「いじめてる人間っていうのはいじめられてる人の気もちが分かるわけないんですよ。なら分からせてあげなきゃ」
「いじめられっ子にそんな勇気があるわけないだろ」
「本当にいじめられたくないって思うのなら、それぐらいすべきですよ。痛みの分かる人間にさせなきゃ」
それからも、いろいろな意見が出された。
由香はふと考えた。
体育の授業を下手なりに一生懸命がんばってる啓太と、面倒くさいとよくサボってる聖也と。
どっちが体力があるか・・・

数日後
啓太は聖也に呼び出されて、トイレに行った。
竜雄は風邪で休んでいたので今日は啓太と聖也だけだ。
「おい、お前昨日小遣い日だろ?さっさと渡しな」
いつもの台詞である。
啓太は言った。
「イヤ・・・・です」
しばしの静寂。
嵐の前の静けさとも思えるほどだ。
「はっ? お前ふざけてんのか?」
「もうやめてください、いじめるのは」
「ふざけてんじゃねーよ」
そう言いながら、聖也は啓太を突き飛ばした
そして、啓太は勇気をだして。
聖也に真正面からぶつかり、聖也を突き飛ばした。
そうするとすぐに、啓太は聖也の前襟をつかみ、殴る体勢に入った。
これで、いじめが終わってくれれば・・・・
そう思い、聖也を殴ろうとすると。
「わ、わ、悪かった、俺が悪かったから許してくれ」
と、おびえた声で聖也は言った。
啓太は痛みというものをよく理解しているつもりだし、人にその痛みを知ってほしいとも思っていない。
「今までパクった金も全部返すから許してくれ」
啓太は、聖也の顔を見た。
かなりおびえている。どうやら、反省したようである。
啓太は、聖也から手を離し、トイレから出て行こうと、気を許し、聖也に背をむけた。
その時。
「何すんだよ!」
と言いながら、聖也は近くにあった掃除道具のブラシをとり、啓太をなぐりだした
何度も・・・・何度も・・・・
					
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