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最終話~卒業~

幸い、と言っていいのか分からないが、裕司は全治2週間のケガですんだ。
裕司は市内の病院で入院することになった。
飛鳥は毎日、見舞いに来ていた。
「腕、大丈夫ですか?」
「俺のことは気にするな。飛鳥のほうこそ、大丈夫か?」
「心配無用です」
「ったくあいつら、飛鳥の顔を傷つけやがって。今度あったときはただじゃおかねえ」
「やめてくださいよ、また返り討ちにあうだけですから」
二人はお互い見つめあい、なぜか笑った。
窓から見える木が、風で揺れた。
裕司はテレビをつけた。
テレビでは、中西明日香についてのニュースがやっていた。
思ったより姿を消したとマスコミにばれたのが早かった。
テレビには大室がうつっていた。
記者に囲まれ、いろいろ質問されて大変そうだった。
「あいつは、未来を探す旅に出ました」
大室はそんなことを言っている。
どうやら大変そうと思ったのはこちらの勘違いで、結構楽しんでいるようであった。
何分かすると、クラスの女子生徒が部屋に入ってきた。
その女子生徒は、顔を赤くしながら、カバンからキレイに包まれた箱を裕司に渡した。
飛鳥はそこで今日が何の日か思い出した。
2月14日。バレンタインデーである。
裕司はその女子生徒から受け取ろうとした。

なぜかその時、飛鳥は胸に針がチクッと刺さる感覚を覚えた。
その女子生徒は、渡し終えるとすぐに去っていった。
女子生徒が去ったのを確認すると、飛鳥は言った。
「受けとるんですね」
「もらえるものは、もらっとかなくちゃ」
そう言って、裕司はハート型のチョコレートを半分に割り、飛鳥に差し出した。
飛鳥はそれを断わった。
去年なら、「そんなことして、このチョコを渡した女子に見られたら悲しまれますよ」と言いながら食べていたが。
どうしても、今回は食べる気になれなかった。

「じゃあ私は帰ります。もうすぐで受験ですので」
「待てよ、これやる」
そう言って、裕司は飛鳥にどこにでも売ってるチョコ菓子を渡した。
「これも、女子からもらったものですか?」
「いいや、さっき売店で買ったんだよ。移動範囲限られてるからそれぐらいしかチョコなくて」
「そうですか、ありがたくもらっておきますよ」
そう言って、飛鳥は病室から出た。
嬉しそうな顔をしながら。

時間はあっという間に過ぎていった。
裕司は退院し、飛鳥は受験に余裕で合格した。
3月初旬になると、卒業遠足ということで、スケートに行くことになった。
飛鳥には初の試みで、手すりにしがみついて立つことが精一杯の状態であった。
「飛鳥、一緒に滑ろうぜ」
「こんな状態の人に言う言葉ではないと思いますが」
「大丈夫、俺の手につかまれ。絶対滑れるから」
裕司にそう言われ、飛鳥はその言葉を信じ、裕司の手につかまった。
だが実際、そんなすぐに上手くできるわけがなく、飛鳥はこけた。
その衝動で、裕司も飛鳥の上に乗っかるようにこけた。
「やっぱり、手すりで練習する?」
裕司はこけた状態で、飛鳥にそう言った。
「滑れるようになるまで、私に教えてください」
飛鳥は倒れた状態で、裕司にそう言った。
二人はゆっくりと立ち上がり、練習を再開した。

そして、いよいよ卒業式の日となった
「卒業生代表、一条飛鳥」
「はい」
学年の先生に呼ばれ、飛鳥は大きな声で返事をして、マイクの前に立ち、答辞を読んだ。
5分ほどして読み終わり、飛鳥は盛大な拍手をもらった。
そこで初めて、飛鳥は泣いた。先生や保護者、卒業生もみんなほとんど泣いていた。
どうやら、前例がないくらい最高の答辞を読めたようだ。

そして、卒業式も終了した。
その後、飛鳥と裕司は中庭に移動した。
回りはだれもいなかった。
「今日で、あなたともお別れですね」
飛鳥は、裕司の顔を見て言った。
二人とも、頬には涙を流した跡がのこっていた。
「飛鳥に会えてよかったよ、飛鳥に出会って2年たつけど、本当に楽しかった」
「私も、あなたのおかげで、学校での勉強以外のことを学べたような気がします」
飛鳥は、意識的に裕司の手を握った。
「また、会えるといいな」
「会えますよ、絶対」
「そうだな」
強い風が吹いた。
例年より早めに咲いた桜の花びらが、二人をよこぎった。
「裕司」
飛鳥は裕司の名を呼んだ。
「Do you love me?」
飛鳥は、裕司と同じ方向を見ながら言った。
「Yes。当たり前だろ、飛鳥を好きになったせいで、他の人を好きになる方法忘れちゃったよ」
その言葉を聞いて、飛鳥は笑みをうかべた。
「ありがとうございます、それを聞きたかっただけです。またどこかでお会いしましょう」
「ああ」
二人は、背を向けて、それぞれの道を歩き始めた。
					
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