第9話~熱病~
スリーポイントを決めてすぐ、裕司はその場に倒れこんで、辺りは騒然とした。
「おい裕司どうした?」
孝一が急いで裕司に駆け寄った。
飛鳥も裕司のほうに速足で向かった。
「どうしたんですか?」
飛鳥の目にとびこんできたのは、倒れこんでいる裕司とそれを支えようとしている孝一の姿であった。
「すごい熱だ、どうりで途中まで調子が悪いわけだよ」
孝一は裕司の額に手をあててからそう言った。
その後、飛鳥も裕司の額にさわった。
よくこんな熱で試合なんてやったものだ。
いつもと違う意味で、飛鳥は呆れた。
「これぐらいなら、1日か2日すれば治るでしょう。でもすぐに看病しなければ」
そうやって飛鳥が言うと、一人の男が現れた。
どうやら、バスケ教室の先生らしい。
「よし、俺の車で家まで運ぼう。孝一は表彰を裕司の代わりに受け取ってくれ」
「分かりました」
そういって、その男は裕司を車まで運んだ。
「ちょっと、君も来てくれ」
「えっ? 私でしょうか?」
裕司は、その男に呼ばれてついていくことになった。
どうやら、その男は裕司の家を知らないらしい。
飛鳥だって知ってるわけではなかったが、幸いカバンの中に名簿が入っていたのでそれを頼りに祐司の家に向かった。
そして、裕司の家についたのはいいが、その男は体育館に戻らなくてはいけないらしく飛鳥に後を任せて体育館に戻ってしまった。
とりあえず飛鳥は、先ほど裕司のカバンから鍵を見つけていたのでその鍵で家に入ることにした。
家には誰もいなかった。
裕司の両親は3年ほど前に離婚したらしい。
原因は、父親の浮気。
今は裕司は母親のもとでくらし、母親の給料と父親の慰謝料で生活していってるらしい。
先ほど、裕司の母親には連絡した。
すぐ帰るとのことだ。
飛鳥は裕司をおぶって、裕司の部屋らしきとこに入った。
そにのベットに、裕司を寝かせた。
裕司はただでさえ熱が高いというのに、バスケをしていたため、かなり汗でぐっしょりぬれていた。
そのため、飛鳥はタンスの引き出しを適当にあけ、そこからタオルをとって裕司の体を拭いた。
着ている服もユニフォームだったため、タンスに入っていたシャツを着せた。
それから飛鳥は、台所に行って、冷蔵庫から氷を取り出した。
他人の家のため、少しは罪悪感があったが、人の看病と飛鳥は自分に言い聞かせた。
そして飛鳥は部屋に戻り、氷水を裕司の額の上にのせた。
そこで飛鳥は一息ついた。
一息ついて、部屋の中を見渡してみると、そこには大きな本棚があった。
中には、中西明日香が出てきている雑誌、写真集などがおいてあった。
飛鳥は次に、テレビの下のビデオデッキに目がいった。
その横にはビデオテープが並べられている。
そして、そのビデオテープにはこないだから中西明日香が出演している1時間ドラマのタイトルが書かれていた。
どうやら、今まで全て録画しているらしい。
しかも、一本のビデオテープに『1話と2話』、『3話と4話』と書いてあるため、標準で撮っているそうだ。
かなりのオタクにしかみえない。
よくここまで金をつかったものだと、飛鳥は感心してしまった。むしろいつものように呆れるところかと思っていると、
「あすか」
ふと、自分の名が呼ばれたので飛鳥は後ろを振り返った。
どうやら、裕司が目を覚ましたらしい。
「ここ、俺の部屋だよな? あれ? 俺、試合は?」
どうやら、自分がどうなったのかよく分かっていないらしい。
「倒れたんですよ、でも大丈夫、試合はあなたのおかげで勝ちましたから」
「そうか、それはよかった」
裕司は一安心してホッとしたようだ。
「でも、無茶しすぎですよ。分かってたでしょ? 自分自身でしんどいことぐらい」
「ちょっとはね、でも小学生で最後の試合だったし」
「そうだったんですか」
二人はなぜかお互い見詰め合ったまま黙り込んだ。
何秒かたって、裕司はハッと自分の今着ている服に気づいたらしい。
「これ、飛鳥が着せたのか?」
「そうですけど、何か?」
飛鳥は少し面白がりながらそう言った。
対する裕司は、その言葉を聞いて顔が赤くなった。
裕司もこんな顔するんだ、と、飛鳥は少し新鮮に感じられた。
「それにしても、飛鳥が自ら俺の家にあがりこんでくれるなんて、合鍵いる?」
「いりません」
いつもならそこで、飛鳥は少し睨むような顔をする、もしくは無視するのだが。
今日はなぜかその後笑った。
そして、飛鳥は裕司と楽しく会話していた。
それから何分かして、裕司の母親が帰ってきたため、飛鳥は帰ることにした。
「では、私はこれで失礼します」
そう言って、立ち上がって帰ろうとしたが。
裕司に裾をつかまれてこう言われた。
「今日はずっと一緒にいてくれよ、今日ぐらいいいだろう?」
そう言われたが、飛鳥は部屋を出た。
そして、飛鳥は裕司の母に聞いた。
「電話、借りていいでしょうか?」
時間は、午後7時を過ぎようとしていた。
飛鳥は祐司の部屋に戻ってくる。
「母に許可を得ました」
飛鳥は先ほど、母親に電話をして、裕司の家に泊まっていいかどうか電話をしていた。
だが、本当のことを話していない。
友達に英語を教えてもらっていて、できるだけ長く教わりたいから泊まることになった。
と、そのような嘘を言って、泊まることの許可を得たのだ。
「明日は学校だけど大丈夫なのか?」
「あなたが一緒にいてと言ったんですよ? まあ、帰ってほしいと言うのなら帰りますが」
「そんなわけねーじゃん、ありがと」
「正直なところ、あなたの熱がうつったら困るのでさっさと帰りたいのですがね」
「俺は正直なところ、飛鳥にうつしたいな」
ちなみに、裕司の母親からは熱がうつってはいけないからと早く帰ったほうがいいのではないかと心配していたが、飛鳥は謝りながら、それを断わった。
そして、何分かして飛鳥は夕飯をご馳走になった。
「おかゆ、持ってきましたよ」
「飛鳥に食べさしてほしいな」
「それぐらい自分でできるはずですよ」
「そこにいるのが飛鳥だから言ってんだよ、孝一ならそんなこと言わない」
飛鳥はその言葉に呆れながらも、おかゆをゆっくり裕司の口へ持っていった。
裕司はものすごい幸せそうであった。
熱だというのに。
きっと、今日という日は裕司にとって最高の一日になっただろう。
そして、いつのまにか、飛鳥は裕司のベットにもたれかかって寝ていた。