第7話~照屋~
「で、ふっちゃったわけだ」
「はい」
「今は勉強に集中したいからって?」
「はい、まあ嘘じゃないですし」
飛鳥は、こないだアズサに告白されたことを大室と話していた。
あの後、今は勉強しか考えれないからとか、私よりふさわしい人がいるなど言ってふってしまったらしい。
「馬鹿だなお前」
「そういうことについては慣れてないので。まあ、あの人よりはいいふりかたをしたと思いますが」
「あの人って、松本裕司ってやつのことか?」
「はい」
飛鳥はこないだ、裕司がクラスのある女の子に告白されているのを話した。
そして、それを近くで聞いていたのを話した。そして、その時の裕司の振りかたを話した。
「そりゃ最悪だな」
「ですよね」
飛鳥は、大室が珍しく、祐司ではなく自分のほうにたいして肯定して言ってくれたので、少しうれしくなり、笑みがこぼれた。
「俺もそうやって振られたことがあるから分かる」
飛鳥はその言葉にたいしては無視をすることにした。
「とりあえず、仕事だ」
「それより、今日はなんの仕事なんでしょうか? 教えられていないのですが」
「来てみれば分かる」
30分後、更衣室に着替え終わった飛鳥がいた。
「な、な、何なんですかこの格好は?」
「ドレスだ。正確にはウェディングドレスという」
「いや、それは見て分かるんですけど、何でこんな格好しなければならないんでしょうか?」
「写真集出すから」
「き、聞いてませんけど・・・」
「そりゃ、言ってないからな」
飛鳥は口が半開きになりながら固まってしまった。
大室の考えは飛鳥にも分かった。
写真集出すと言われたら、絶対飛鳥はそれを拒む。それを大室は予想して言わなかったのだろう。
「じゃあスタジオ行くぞ」
スタジオにつくと、もちろんカメラがある。
そのカメラで飛鳥の写真をとり。
それが本になって全国に売り出される。
考えただけで飛鳥は恥ずかしかった。
飛鳥にとってこの格好は、人生12年のうちでもっとも恥ずかしい格好だ。
その恥ずかしさは撮影に入ってもおさまることがなかった。
「ちょっと顔ひきつってるよ、もうちょっと笑おうとして」
「こうですか?」
なんとか頑張って飛鳥は笑おうとした。
だが、やはり恥ずかしさがおさまることはなかった。
けれど、思ったよりは順調に撮影が終わった。
飛鳥的には本当にいいのか? と思ったが、とりあえず、飛鳥はホッとした。
これでやっと、この服から開放される。
そう思っていた。
いや、確かにその思いは、間違いではなかった。
「じゃあ次、水着だ」
「えっ?」
この日は、飛鳥にとって最悪な1日となった。
せっかく、大室と少しは意気投合できたと思ったのに・・・
1ヵ月後、写真集が発売された。
タイトルは『シャイリー』というらしい。
「あの、これどういう意味ですか?」
飛鳥は大室に聞いた。
飛鳥は、学校で習ったことはだいたい分かるが、習っていない、つまり小学校ではやらない英語となると分からないのが多々ある。
「恥ずかしそうにっていう意味らしい」
やはり恥ずかしがっているのはバレバレだったそうだ。
次の日、また休み時間に飛鳥は次の授業の予習をしていた。
そんな時、裕司が近づいてくるのが分かった。
今日もまた話し掛けて来るのかと思ったら、どうやら違うらしい。
裕司は飛鳥の近くまでくると、そこに孝一を呼んだ。
近くにいるせいで、飛鳥には裕司の声がよく聞こえる。
「おい孝一、いいもの見せてやるよ」
そう言って、裕司はカバンの中から何か取り出した。
「ジャジャーン、昨日発売されたばっかの中西明日香の写真集」
その声に飛鳥はかなり敏感に反応して吹き出しそうになったが、なんとかこらえた。
おいおいまさか、そう思いながら二人の様子をうかがった。
「この顔が恥ずかしがってるところがキュートなんだよ」
裕司は、中西明日香の写真集、つまり『シャイリー』を孝一に見せていた
それを知ると、飛鳥は急に恥ずかしくなって顔が赤くなった
その様子をチラッと裕司が見たのが分かった。
どうやら、飛鳥が恥ずかしがると分かっていてわざっと飛鳥の近くまで移動したらしい。
最悪な嫌がらせである。
飛鳥は顔を下に向けて、回りから顔が見えないようにした。
「中西明日香の写真を撮れるなんてこのカメラマンうらやましい」
「そうだな」
どうやら、裕司に孝一は感染してしまったらしい。
早くやめてくれないだろうか、飛鳥はそんな気分であった。
「それより、この『シャイリー』ってどういう意味だ?」
孝一が裕司に聞いた。
その声は飛鳥にも届いていた。
「ああ、恥ずかしそうにっていう意味だよ、そのまんまだな」
「えっ?」
今の裕司の言葉で飛鳥は少しビックリした。
まさか、裕司がシャイリーの意味が分かると思わなかったから。
「お前よく知ってるな~調べたのか?」
「いや、物心ついた時から英語塾行かされてたから、英語とバスケだけには自身がある」
「バスケの実力は俺とたいしてかわんねーだろ」
いつのまにか、飛鳥の顔色はいつものように戻っていた。
そして、ちょっとだけ、そうほんのちょっとだけだけど。
裕司のことを見直した。