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第10話~演劇~

10月半ば。
このころになるとどこの学校でも、毎年恒例なあるイベントがある。
文化祭だ。
毎年クラスごとに、出し物をしたり、ステージで劇をしたりや歌ったりしている。

今日のホームルームでは、その文化祭で何をするかについて話し合っていた。
そして投票の結果、飛鳥たちのクラスは眠れる森の美女をやることになった。
「やっぱり~それだったら、王子様は裕司君がいいよね~」
どこから女子のそんな声が聞こえてくる。
本当ならその後に、そして姫は私とでも言いたいのだろう。
「いいよ、俺が王子様役でも」
裕司はノリノリでそう言った。
ただ、飛鳥はとてつもなく嫌な予感がした。
「でも、俺が王子様やってもいいけど、お姫様役は俺が選ばせてよ」
飛鳥は、裕司がそういうと予測していた。
もちろん、誰を選ぶかは飛鳥なら想像がつく。
でも、でもそれだけは飛鳥には耐えがたいことであった。
誰か予想がつかないであろう女子たちの目は少し輝いている。
「じゃあ、お姫様役は飛鳥がいいな」
やはり、思っていたことをそのまんま言った。
一瞬、教室に変な空気がただよった。
「え~一条君? それなりに女の子っぽいかもしれないけど、演技へたそうじゃん」
どこからかそんな声が聞こえてくる。
その後に、それなら私がやると言ってほしかった。もともと、立候補者優先なのだから。
飛鳥はそう思った。
「何言ってんだよ? 国語の授業で飛鳥の本読み何回も聞いたことあるだろ?」
その裕司の言葉で、少しみんなを納得してしまったようだ。
飛鳥にはかなりまずい状態である。
これはやばい。
「ちょっと待ってください、実際手を挙げてないだけでお姫様役をしたい人はいると思いますよ」
だいたい飛鳥には予想できた。
裕司の相手役ならば、やりたいと思う女子はこのクラスに何人もいるはずだと。
だが、それを言っても手をあげる人はいなかった。
「じゃあ、誰も手をあげないから飛鳥で決定だな」
それでも、飛鳥は頑固にそれだけはやめさせようとした。
「でも、私は男ですよ。こういうのは女性がやる役ではないでしょうか?」
「なに言ってんだよ?見た目が女っぽいからどっちでもいいじゃん」
「私を知ってる人だって客席に何人でもいるわけですよ」
「それならそれで、面白いだろ」
それでも、飛鳥は断わろうとなんとかいいわけを考えた。
「なあ、そんなに俺の相手役をやるのがいや?」
裕司は飛鳥の顔を見ながらいった。
「いやです」
とりあえず飛鳥はそう言った。
無駄なような気もしたが、そういえば女子が味方してくれると思ったからだ。
だが、飛鳥は忘れていた。裕司に弱みをにぎられていることを。
「一緒に寝た仲なのに」
その言葉を言われ、飛鳥は一瞬にして顔が赤くなった。
まさか、そんなことを言ってくるとは飛鳥は思いもしなかった。
だって、そんなことを言ったら、裕司まで恥ずかしがると思っていたから。
よく、そんなことを裕司が言ってもクラスメートは裕司が飛鳥のことを好きということを気づかないもんだ。
まあでも、中西明日香とバラされるよりはマシかもしれない。と、飛鳥は思ったものの、
「そうそう、実は俺、飛鳥の弱み握ってんだよな~みんな教えてやるよ」
「やります、やればいいんですね」
クラスの男子の中にはその言葉で笑っている人がいた。
そりゃそうである、今まで真面目キャラで通してきた人物が劇で女装して、しかも主役だ。
女子の中には、羨ましそうに飛鳥を見たり、飛鳥を睨みつけたりしたりする人がいた。
裕司はにやにやと笑っていた。

「全く、あの人のせいでプライベートまで女役ですよ」
飛鳥は、控え室で大室に愚痴を言っていた。
「別にいいだろ?いつもやってることなんだから」
「私の学校での立場を考えて言ってください」
それを言われて、大室は言い返せなかった。
確かに、飛鳥は普段は勉強ばっかりのがり勉タイプだろう。
そういう人が、女装して劇の主役と考えたら大室としても確かに変な感じであった。
まあ、実際その人物は学校内だけではなく、全国区間で女装して活躍しているわけだが。
「それに、話は変わりますがなんなんですか?今度のドラマ設定?」
今度仲間明日香が出演するドラマ。
それは、ジャンル的には恋愛学園物だ。
ある中学1年生の男子生徒が勇気を出して好きな女の子に告白して、それから、二人は付き合うという話である。
だが、明日香の役はその告られた女の子の役ではない
その女の子の友達の役である。
ただし、その子は友達の女の子と男の子が付き合うのを快く思っていない。むしろ、不愉快と思っている。
なぜなら、その子は、男の子ではなく、男の子と付き合うことになった、友達の女の子のことが好きだからだ。
そして、その女の子は、その二人を引き離そうとする。
そんな話である。
「いや、それなら男のお前にしちゃあ好きな相手は女なんだからやりやすいかな~? なんて」
「同性愛だからですよね? あの人のせいでそういうイメージを大室さんが私に抱いてるなんてうすうす感じてはいるんですよ」
大室は図星をつかれたようで、そこからは何も言ってこなかった。
とりあえず、飛鳥は今日は教科書ではなく、劇の台本を読んでいた。
眠れる森の美女
有名な童謡である。

あるとき、王様にようやく娘ができた。そこで、王様はパーティを開いた。
だが、招かれなくて起こった魔女が言った。
「16歳に、糸繰車の針にささって王の娘は永遠の眠りにつくだろう」と。
そこで、王様は村中の糸繰車を処分しましたが、ただひとつだけ残っていることに気づかなかた。
そのただひとつの糸繰車の針を姫は針に刺さって姫は永遠の眠りについた。
その姫を目覚めさせることができるのは姫が愛した王子のキスのみ。
そして、キスをして姫は目覚め、二人は永遠の愛を誓うといったような話だ。

まあ、実際にはちょっと違うようだが、今回の劇ではこういう流れである。
さて、問題はキスシーンである。
多分、フリだけでいいはずである。
本当にやってしまっては、クラスの女子になんて言われるか分かったもんじゃないし、だいたい小学生の劇にそこまで求められるはずがない。
だが、1週間後、とうとう練習はキスシーンのところまで行き、裕司は言った。
「このキスシーンって、本当にキスしちゃっていいの?」
それに対しての生徒の意見は。
男子は、賛成。女子は、反対であった。
なんとか、フリでおさまったわけだが、実際のところ、飛鳥はキスを待っている役なので、抵抗ができない状態なのである。
つまり、本番だけアドリブで裕司がキスをしようとしたらできる状態なのだ。

そして1ヵ月後、いよいよ本番である。
飛鳥は、ふだん演技には慣れているのでさほど緊張感はなかったが、恥ずかしさはあった。
だが、ここまできたらやるしかないことぐらい分かっている。
「お父様、今日はどちらへお出かけになるのですか?」
飛鳥が何か言うたびに会場のほうから笑い声が聞こえた。
だが、それとまじって驚きの声も聞こえた。
演技の上手さに驚いているのかもしれない。
まあ、飛鳥は演技の道に行ってから半年はたつので他のクラスメートと比較すると上手いのは当たり前である。

そして、いよいよキスシーンがやってきた。
王子は寝ている姫の顔を見て一言言う。
「美しい」
感情入りすぎである。
本音なのかもしれない。
そして、裕司の顔は飛鳥の顔にどんどん近づいていった。
会場からは「キャー!」とか「おおーっ!」とかいう声が聞こえる。
裕司が飛鳥の体を起こすのがキスをしたの合図である。
会場からは「なんだ、しねーのかよ」とやじが聞こえてきた。
そう、しなかった、フリで終わったのだ。
ただ本当は、観客席からは、もう少しキスしているように見えるようにしようとしていたが、バレバレだったようである。。

そして、裕司は言った。
「姫、愛しています」
飛鳥はビックリした。
なぜならば、そんな台詞、台本にはないからだ。
すると突然、裕司は飛鳥を強くだきしめ・・・・・飛鳥と裕司の唇がふれあった。
裕司の唇はやわらかく、あたたかで。
と、そんなこと考えるわけがなかった。
飛鳥は人生生きてきた中で最も人を殴りたいと思った。
だが、とりあえずまだ劇には続いてダンスをするこっとになってるので、それを続けるしかなかった。
会場からは歓声が上がっていた。
その後、飛鳥は睨みつけながら裕司と踊った。
					
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