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第5話~鈍感~

あれから1ヶ月がたち、飛鳥は仕事をやらなければいけない状態にあった。
仕事は順調、さっそく何件かバラエティー番組への出演依頼もきている。
「すごいよすごいよ。いや~やっぱ俺は人を見る目があるのかな~」
大室は飛鳥にそう言った、というより叫んだ。
ちなみに、飛鳥は国語の教科書を読んで予習している。
「こないだの記念すべきデビュー作品も15%を記録したらしいぞ~」
「そりゃあ、よかったですね」
「それは俺が言う台詞だって」
飛鳥は教科書をめくった。たまに、近くで買ったココアを飲んでいる。
「お前もさ~もっと喜んだらどうだよ? 嬉しいだろ?」
「そんなことありませんよ」
飛鳥は顔色変えずにそう言った。どうやら、本心らしい。
「ただ、お願いがあるんだ」
「まだあるんですか?」
「眼鏡からコンタクトにしてくれないかな~って」
「いやです、コンタクトなんて疲れそうですし」
飛鳥は少しずれた眼鏡を元の位置に戻しながらそう言った。
ドラマの撮影はずっと眼鏡なしでやっていた。
そのせいで、何度か飛鳥は目を細めたり、距離か近すぎたりしてカットになったことが何度かあった。
なので、大室としてはコンタクトに変えてほしかったのだ。
まあ、眼鏡は飛鳥のチャームポイントの一つであると大室は思っているが。

「なあ、一つ聞いていい?」
「何ですか?」
「お前の夢って・・・・医者?」
飛鳥は大室のその言葉を聞いて驚愕した。
「どうして分かったのですか?」
「いや、お前みたいなキャラ絶対に夢は医者か弁護士だろうな~って」
そう、飛鳥の夢は医者であった。
医者になるために今まで一生懸命勉強してきた。医者は頭がよくないなれないと聞いたから。
「そういうお前に今度の仕事だ」
「もしかして医者役とか?」
「んなわけないだろ。患者役だ」
「ですよね・・・」
今の言葉でちょっとだけ飛鳥は落ち込んだ。
「でも、本物の医者が来て医者役の人に、医者とはどういうものか教えるから、その横で聞くことは可能だぞ」
その言葉に飛鳥は敏感に耳が動いた。
「やる? 初めての連続ドラマ」
「まあしょうがないですね。仕事ですし」
大室は思った。
飛鳥は素直じゃないなと。

次の日の学校での休み時間。
飛鳥は医学について書いてある本を読んでいた。
「なんだ? 飛鳥、今日はえらい難しそうな本読んでるんだな」
「夢が医者ですし」
飛鳥はあえて、自分が今度患者役としてドラマに出ることを裕司に言わなかった。
「そうか~飛鳥みたいなナースがいたら俺喜んで病気になるんだけどな」
「私がなりたいのは看護士ではなく医者です」
と、飛鳥が言ったが、裕司は想像の世界に入っていた。
そんな想像の世界に入っていた裕司を現実の世界に戻したのはクラスの女子であった。
その女子はすこしぽっちゃり目で、おせじでもかわいいとは言えない容姿である。
その子に呼ばれ、裕司は中庭に行くことになった。
対して飛鳥はその時、クラスメートに注意を受けた。
「お前今日日直だぞ、日誌取りに行けよ」
「すみません、教えてくださってありがとうございます」
飛鳥は急いで職員室に向かった。

職員室に行く一番の近道は中庭を通っていくのが早い。
そこでふと、飛鳥の視界に裕司の姿が映った。
「あの、その、私、私、裕司君のことが好きです」
どうやら告白らしい。
まあ、裕司にしてみれば珍しいことではない。裕司は女子からモテる。
バレンタインの日だって・・・(以下略
そんな中、聞くつもりはなかったが、告白している横を堂々と通るわけにも行かず、飛鳥は隠れていた。
それに飛鳥はなぜか、裕司が次になんというかが気になっていた。
「ごめん、俺かわいい子が好みなんだ」
告白した子は、裕司のその言葉を聞いてすこし固まった。
「そ、そ、そうですよね。ごめんなさい、こんな迷惑なことして」
「いいよいいよ、慣れてるし」
「じゃあ、私先に教室戻ります」
そう言って、その女の子は走って教室に戻っていった。
ちゃんと顔は見ていないが、泣いていただろう。かわいそうに。飛鳥はそう思った。
飛鳥はどこか同情する思い出その女の子に目をやった。
そして、職員室に向かおうとすると、祐司が飛鳥のほうにむかってきているのが分かった。
「飛鳥じゃん、聞いてたの?」
裕司はいつもと変わらない様子であった。
「あなた最悪ですね」
「えっ?何が?」
裕司はなぜ飛鳥に最悪と言われたのか分からなかったようだった。
今の告白で、オッケーしたほうがなおさら最悪だと思うのだが、と。
「別にいいですけどね、私には関係ないことですし」
そう言って、飛鳥は職員室にむかった。
飛鳥は日誌を取り、帰りにプリントボックスの中を確認すると大量のプリントがあることが分かった。
プリントボックスとは、その日、クラスのみんなにたいしてくばる手紙を入れる箱のことであり、担当の先生が随時そこに入れていく仕組みとなっている。
「今日は多いですね」
そうつぶやきながら、頑張ってその大量のプリントを持とうとしたが、少し無茶があったようで、何枚か落ちてしまった。
「手伝うよ」
「ありがとうございます・・・って、あなたですか」
そこにいたのは裕司であった。
「今日はプリント多いな、まあ6月初旬だし」
「どうやら昨日の日直はプリントをとるのを忘れたらしいですしね」
飛鳥は裕司に何種類かプリントを渡した。
「ねえ、何でさっき最悪なんて言ったの?」
裕司は気になっていることをそのまま飛鳥に聞いた。
「何ででしょうね? まあ、先ほどの女子に聞いてみたらどうですか?」
「ん? 飛鳥はあの子の気持ちになって言ったのか?」
「まあ、そんなとこでしょう」
「そっか~やっぱ、飛鳥は女の子の気持ちが分かるぐらいになったんだな」
その言葉に飛鳥はため息をついた。
これで何回目であろう? 裕司の言葉に呆れたのは。
そう思いながら飛鳥は、教室に向かって歩いた。
裕司と一緒に。
					
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