yuuの少女少年FANページのロゴ
 

第13話~暴行~

「大室さん。お願いがあります。芸能活動やめさせていただきたいんです」
飛鳥は大室に『辞表』と書かれた封を渡しながら、大室にそう言った。
「やめたいって言ったやつはいままで何人かいるけど、こんなのもらったの初めて」
そう言いながら、大室はその辞表と書かれた封を受け取った。
「理由は? この中に書かれてるかもしれないけど、声で聞きたい」
大室は急に真面目な顔になり、飛鳥にそう言った。
「成績落ちたんです、今までずっと学年1位だったのですが、2位に」
その言葉を聞いて、大室は少しだけムカッとなった。2位でも充分いいだろうと。
「理由はそれだけ?」
「いけないでしょうか?」
「いや、別に」
そう言って、大室は辞表を引き出しにしまった。
部屋に変な空気がただよった。
「じゃあ、とりあえず関係者のかたがたに伝えとくよ。中西明日香は引退しますって。今残ってる仕事にはでてもらうことにして、新しい仕事は入れない」
「ありがとうございます」
大室は立ち上がった。
「じゃあ俺は今から他のタレント活動の様子を見に行かなきゃならないから。お前はもう帰れ」
「はい」
部屋を先に出て行ったのは大室のほうであった。
飛鳥はなぜかその場所で数分間、動かないでいた。
ふと、全身鏡が目に入ったのでその前に立ってみる。
「さようなら、中西明日香」
そう言って、カツラを外した。

次の日、裕司は飛鳥に久々に後ろから抱きついてきた。
「飛鳥~見たぞ昨日のドラマ。飛鳥ってどんな役をやってもかわいいよな」
飛鳥は裕司を追い払おうとしなかった。
そしてなぜか、裕司は自分から離れた。
「そうそう、あなたに二言言わなければ」
そう言って、飛鳥は裕司のほうに振り返った。
裕司には、その時の飛鳥にはいつもと雰囲気が違うような気がした。
「学年1位おめでとうございます」
裕司はドキッとした。
「なんのこと?」
裕司は少し慌てぎみにそう言った。
飛鳥はその言葉に対して返答しなかった。
「それから、私、仕事やめることにしましたんで」
一瞬、静かになった。
「そうか、飛鳥がそう言うならしょうがないな」
裕司はそう言った。
その後、裕司は何も言わなかった。
「どうして、続けさせようとしないのですか?」
飛鳥はなぜか裕司にそう言った。
その言葉には少し怒りが混じっていた。
「どうして前みたいにおどしてでも続けさせようとしないのですか?」
もう一度、飛鳥は裕司に迫った。
「あなたが私をおどしたりしなければ、私はあんなことしなくてすんだのですよ」
そして、裕司は一言言った。
「ごめん、飛鳥がそんなに嫌がってたなんて・・・」
その言葉を聞いて、飛鳥の言葉は止まった。
そして、裕司は飛鳥に視線をそらしながら席に戻っていった。
――違う
飛鳥は心の中で、そう叫んでいた。
――そんな言葉を期待していたんじゃ、ないんです。
飛鳥は一人、突っ立っていた。
――本当は、続けてほしいって言ってほしかったんです。
飛鳥は、なぜか涙を流した。

1週間後、ドラマのクランクアップをむかえようとしていた
マスコミには内緒で、今日を最後に姿を消すつもりである。
撮影は思ったより遅れたが、明日香は盛大な拍手と花束を受け取った。
飛鳥は号泣した。
スタッフとしては、思ってた以上に明日香が泣き出したので少し動揺していた。
しばらく涙は収まらなかった。
まだおさまりきらなかったが、飛鳥が控え室に戻ると、大室が飛鳥のあたまをポンと叩き、言った。
「今までご苦労様でした」
「こちらこそありがとうございました」
「まさかお前があそこまで泣くとは思わなかったよ」
「少し恥ずかしいところをお見せになったかもしれませんね」
大室と飛鳥はしばらく、ココアを飲みながら話し合っていた。

「お前、本当は続けたいんだろ?」
「正直に申しますと、続けたいです。いつからそう思うようになったのか、自分でも分かりません」
二人はゆっくりココアのカップに口を付けた。
「松本君には言ったの?」
「はい、思ったより・・・・というより全く反対してきませんでした」
「ふ~ん、それで、付き合うの?」
「それは分かりません」
飛鳥はココアを飲み終わった。
「では、これで失礼します」
「またいつか会おうな」
「はい」
飛鳥はこの1年を思い返しながら、ゆっくりと歩いて帰って行った。

外に出てみると、外はもう真っ暗だった。
とりあえず、飛鳥は街灯をたよりに家に帰ることにした。
その途中のことであった。
飛鳥は誰かに腕を強引につかまれた。
「やめてください、なんなんですかあなたたちは?」
そこにはガラの悪そうな男が複数いた。
飛鳥は頭をつかまれ、眼鏡をはずされた。
「あれ?暗くてよくわかんなかったけど中西明日香じゃねーじゃん」
男はそう飛鳥の顔に近づきこう言った。
臭かった、煙草のにおいである。
「でも、どことなく似てねー? 髪違うけどさー」
後ろの男が言った。
手にはなぜ持ってるのか分からないが、バットを持っていた。
「おいおい、まさかお前がカツラかぶって中西明日香になってたんじゃねーだろうなー?」
他の男が、飛鳥の髪をくしゃくしゃにしながらそう言った。
「やめてください、今帰宅中ですので」
飛鳥は男の手をふりほどいて、先にすすもうとした。
だが、予想はしていたが帰らせてくれないようだ。
「おいおい、俺らから簡単に帰れると思ってんのか?」
最初の男が、飛鳥の胸倉をつかんだ。
「やめてください」
そう言って、飛鳥はその手をどけようとした。
だが、いきおい入って、その男のほっぺたを叩いてしまった。しかも甲のほうで。
「やりやがったな」
そう言って、その男は飛鳥を殴りつけた。
それを合図のように、後ろの男たちも、殴る準備を始めた。
そして、バットを持ってる男が飛鳥の上でバットを振り下ろそうとした。
飛鳥は目を瞑り、伏せた。
だが、いくらたってもバットが当たった感覚がしなかった。
飛鳥はゆっくりその方向を見た。
「テメーら、俺の飛鳥になにしやがる」
そこには、左手でバットをおさえている裕司の姿があった。
「何だお前? やっちまいな」
そして、全員がいっせいに裕司に暴行を始めた。
裕司はやられたらやりかえし、やられたらやりかえしの繰り返しであった。
それから5分ぐらいして、サイレンの音が聞こえ、男たちは逃げていった。
その5分、たった5分が飛鳥には長く感じられた。
裕司はところどころにケガをおって倒れていた。
左手は血で真っ赤にそまっているのが分かった。
飛鳥はすぐに裕司を抱きかけえ祐司の名を呼んだ。
「ゆうじーーーー!!」
					
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 END