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第8話~試合~

時が流れるのは早く、あのCM撮影から5ヶ月がたとうとしていた。
「先生、私、私手術したくない」
裕司は下校中、飛鳥の横でそう言った。
この台詞は、昨日やっていたドラマで中西明日香が言っていたものである。
飛鳥はその言葉を無視していたが、言葉自体は聞こえているため、少し顔が赤くなっていた。
「やっぱ、恥ずかしがってる飛鳥の顔ってかわいいよな~」
さすがに、これ以上無視しても一緒だと思ったのか、我慢できなくなったのか、飛鳥はずれてもいない眼鏡をかけ直しながら、
「いいかげんにしてくれませんか? それに、こっちじゃないはずですよ、あなたの家は」
飛鳥は少し裕司をにらみつけた。
裕司はお構いなしに話を先ほどの調子で続けた。
「そうそう、言いたいことがあったんだ」
「さっさと終わらせてください」
二人は一度立ち止まった。
「今度の日曜日、バスケの試合が市民体育館で行われるから、見にきてくれないか?」
裕司は英語塾以外に、バスケ教室にも通っており、1年に何回かバスケの試合をやっている。
「いやです」
「何で?」
「仕事ですので」
「・・・・それならしょうがないか」
さすがに、仕事と言われては裕司もあきらめたようだ。
だが、裕司は悲しそうな顔をしていた。
「それではここで失礼します」
飛鳥はさっさと家に帰っていった。

家に帰ると、そこには飛鳥の母親がいた。
「おかえりなさい。そうそう、今日本屋で『中学になる前に中学の予習を』っていう本があったから買っておいたわ」
「ありがとうございます」
飛鳥はさっそく机の前に座り、その本を開いてみた。
当たり前だがすぐに分かるわけがなかった。
長いこと読んでいるうちに簡単な数学は分かってきた。
だが、どうしても英語を理解することが出来なかった。

次の日、飛鳥は珍しく裕司に話しかけた。
「何? 飛鳥から話しかけてくれるなんて珍しいじゃん」
「あの~お願いがあるんですが」
「何? デートのお誘い?」
「英語を教えてほしいんですけど」
正直、飛鳥にしてみれば裕司にだけは頼みごとなんてしたくなかった。
だが、近くにいる人で一番、英語の勉強において頼りになりそうなのは裕司しかいなかった。
きっと裕司は喜んで引き受けてくれるだろう。
ただ問題は、真面目に教えてくれるかどうかだったが。
「いいよいいよ、俺が飛鳥の英語の家庭教師になってやる」
裕司は飛鳥の顔に近づきながら言った。
飛鳥の予想通りかなり喜んでいるようだ。
「あまり顔を近づけないでくれませんか?」
「ごめんごめん、飛鳥の家に行けるって思うと嬉しくて」
「いいえ、教えてくれるのは学校でだけでいいので」
「何で? 行くよ?」
「あなた、もうすぐ試合あるんですよね? 放課後は練習するんじゃないですか?」
裕司はその言葉に少し驚いた。
そして、飛鳥の頭をなでながら裕司はこう言った。
「ありがとう、俺のことを考えてくれてるなんて」
「本当は、放課後まであなたと一緒にいたくないからですけど」
「素直じゃないなー」
そう言いながら、二人だけの勉強会を始めた。
「Do youで始まる疑問文なら、Yes,I do.もしくはNo,I don't.でかえすのが基本だ」
「えっと、このknowってどういう意味ですか?」
「知るっていう意味だよ」
「えっと、go toは~へ行く」
「疑問詞は絶対文の最初につくんだよ」
「書くという意味の英語はWrite(ライト)、飛鳥は右利きだから覚えやすいだろ。右は英語でRight(ライト)だしな」
「火曜日はチューズデー、水曜日はウェンズデー」
「じゃあ質問、Do you love me?」
「No,I don't」
「どうやらまだ分かっていないようだな」
そして、4日が過ぎた。
「この4日間ありがとうございました」
「さすが飛鳥、たった4日ですっげー理解した」
「あなたのおかげとでも言っておきましょうか」
「ありがと、本音だと思ってうけとっとくよ」
「はい。そうしてください」
実際に本音ではあるのだけれども、飛鳥は本音ではないように言った。
二人はお互い背をむけ、帰ろうとした。が、帰る前に飛鳥は裕司に一言言った。
「明後日の試合、がんばってください」

日曜日になった
今日も、飛鳥は仕事であったが、いつもより落着きがなかった。
そのことは大室にも気づかれたらしい。
「どうした? そんなに今日の仕事楽しみか?」
「私自身、よく分かってませんが、そうかもしれませんね」
今日の仕事はドラマのクライマックス。
今まで3ヶ月ぐらいがんばったが、それがようやく終わるのだ。
でも、それだけじゃない気がしていた。
「本番はいりま~す」
そう言われて、飛鳥は位置についた。
そして、そこから見える時計を、目を細めて見た。
もうそろそろバスケの試合が始まったころだろう。
飛鳥はふと思った。
そして気づいた。
先ほどからそれが気になっていたのだと。

そのころ裕司は、1回戦をギリギリで勝って休んでいるところだった。
「ゆうじくーーーん」
学校の女子が応援に駆けつけてきて、裕司の名を呼んだ、というより叫んだ。
その声を聞いて裕司は、その女子の軍団に小さく手を振り、ウィンクした。
「いいね~もてる男は」
隣で孝一がぼやいた。
「うるせー」
そう言いながらも、裕司は視線を女子のほうにむけていた。
だが、分かっていながらも、飛鳥がその中にいないことが分かると、どこか悲しげな表情になった。
「お前、こんなハッピーなことしてるのに何で悲しんでんだよ?」
「えっ? 俺、悲しんでた?」

2時間後、飛鳥のほうはようやく撮影が終了した。
飛鳥がせかしていたせいか、少し長引いてしまったのだ。
「おいおい、なにあわててんだよ?」
「来てくれと言われているので」
「何だ?松本君とデートか?」
「違いますよ、バスケの試合だそうです」
「そっか、じゃあすぐに行かなきゃな」
飛鳥は急いで、市民体育館にむかった。
飛鳥自身、なぜそんなにあわててるのか分からなかったが、とりあえず、英語を教えてくれたお礼と自分の心に言い聞かせた。
飛鳥は時計を見た、今頃決勝戦をやってるころであろう。
つまり、裕司たちのチームが決勝戦まで勝ち進んでいなければ裕司の試合姿は見れないのである。
そのころ、裕司のチームはなんとか決勝戦までには来ていた。
だが、現在2-4で負けている
残り時間はあとわずかであった
「裕司パス」
裕司はボールを孝一からうけとり、シュートしようとした。
だが、入らなかった。
いつもなら入るような距離なのになぜか裕司は調子が出なかった。
ボールは相手にうばわれ、それを裕司は取り戻そうとした。
相手チームは大きくボールを投げ、パスをした。
いや、正確には大きくボールを投げただけといったほうがあってる。
どうやら相手チームは守りに入ってシュートをいれさせないつもりらしい。
なんとか、裕司にボールが回ってきたが、相手チームは全員守りに入ってしまった。
残り時間は10秒というところまできた。
もう無理だ、諦めかけたその時、出入口から入ってきた飛鳥の姿が見えた。
「がんばってください」
なぜかその一言で裕司は自信が出てきて、左手で大きく手を振り、右手でボールをドリブルをして。
セーターサークル内でシュートを決めた。
と同時に笛の音が鳴る。
結果、5-4で逆転勝利となった。

だがその瞬間、裕司はそのセンターサークル内で倒れこんでしまった
					
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