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第12話~学力~

あれから裕司は、母親の保険と親戚の仕送りで一人暮らしをしている。
イトコやおば、おじから一緒に住もうと連絡があったが、今転校しても中途半端ということもあり、とりあえず卒業まではこちらにいることしたらしい。
「お前、昨日勉強した?」
「してるわけねーじゃん。ゲームばっか」
どこからかそんな声が聞こえてくる。
実はこの学校、小学校ではあるが。
毎年、学年の最後のほうになってくると1年間をまとめたテストをやるのが決まりであった。
今まで飛鳥はいつも1位であった。
1位以外、飛鳥にも考えられないようになっていった。
そして今日が、そのテスト当日であった
その日の朝、クラスには頑張って勉強してるものもいた。
また、小学生だからそんなこと気にしなくていいと言って、いつもとかわらないようなことをしてる者もいた。
飛鳥は、もちろん前者のほうであった。
いや、ある意味では後者のほうかもしれない。いつも、朝は勉強しているのだから。
だが、いつもと少し違うのは、裕司が話しかけてこないことだった。
飛鳥はふと気になり、裕司の方向を見た。
どうやら裕司も勉強をしているようだ。
ちょっとだけ、飛鳥は意外に思った。

そして、テストが始まった。
教室からは、鉛筆で文字を書く音しか聞こえてこない。
1時間目は算数、2時間目は国語、3時間目は理科、4時間目は社会。
そして、テストは終わり、飛鳥は真っ直ぐに家に帰ると、仕事のため出かける準備をした。
だが、そこで母親に呼び止められた。
「ちょっと待ちなさい。最近どうしたの? よく出かけてるけど・・・。どこに行ってるの?」
飛鳥は母親に女装して芸能界に入っているなんてことは言ってなかった。
なので、いつも出かける時は嘘をついて出て行っていた。
大抵の場合、友達と勉強と飛鳥は言っている。
そして、今日も飛鳥はそうやって母親に言った。
「友達と一緒に勉強をしようといわれまして」
「テスト終わったのに?」
「その子が、英語を塾で教わってるらしいので、それも教わっていて」
「そんなこと言って、まさか遊んでいるなんてことないでしょうね?」
「そんなわけないじゃないですか」
いつもならすぐに行かせてくれるが、今日はやけにしつこかった。
飛鳥はすこし冷や汗をかいていた。
なぜ今日はこんなにしつこいのだろう? まさか、飛鳥=明日香だとバレているのだろか。
早くしないと勤務時間に間に合わない。
飛鳥は少しあせっていた。
そして、母親は言った。
「じゃあ、お金はおいていきなさい」
飛鳥はすこし、ドキッとした。
テレビ局は電車で一時間ほどかかるところにある。
もちろん、そこまでの交通費もいる。
ということは、お金がないとテレビ局まで行けないということだ。
「さぁ早く」
「途中に本屋によってまた新しい参考書を買ってこようと思いまして」
「じゃあ、昨日は何に使ったの?」
昨日も飛鳥には仕事があった。
もちろんその時にお金をつかう。
どうやら、母親は財布の中身を見たらしい。
「昨日も、問題集を・・・」
「増えてなかったわよ」
どうやら、本棚までチェックされてしまったらしい。
「さぁ、さっさと白状しなさい。嘘を平気でつくような子に育てた覚えはないわよ」
「本当のことを言ったってあなたは怒りますよ」
飛鳥は、嘘をついていることだけは認めた。
これ以上、いいわけは通用しないと思ったようだ。
「いいからいいなさい」
「急いでいるので」
そう言って、飛鳥は母の質問に答えなかった。
飛鳥は歩きながら、心のなかでつぶやいた。
「私も、そろそろ反抗期なんですかね?」

1週間後、テストがまとめて返ってきた。
「あまり落ち込まないようにね」
先生は飛鳥にそう言った。
その言葉で、飛鳥はとりあげるように先生からテストを受け取った。
算数96点、国語98点、理科99点、社会100点
そして、飛鳥はゆっくり成績表を見た。
『学年順位:2位』
飛鳥は愕然とした。
そして、こないだ母親に反抗したことを恥ずかしく思った。
「芸能人なんてやってたから」
飛鳥は心の中でつぶやいた。
さっさとやめて勉強に集中すればよかった。飛鳥はそう思った。
そして、全員のテスト返しが終わった。
「じゃあ、間違いがある人は先生に言ってください」
そう先生が言って、裕司が急いで先生のほうへむかった。
「えっ?あなたいいの?」
先生は裕司にそう言った。
飛鳥の耳にはその言葉は入っていなかった。

その日の飛鳥は、ずっと元気がなかった。
飛鳥自身、この元気は1週間たっても元に戻らないと思っていた。
だが、終礼の時にはいつもと変わらないようになっていた。
理由は、先生にこう言われたから。
「一条君、実は1位の生徒にかなり間違って丸しちゃってたからあなたが総合1位よ」
飛鳥はかなりホッとした。
その後、新しい成績表を飛鳥は先生からもらった。
「それから、あなたにお願いがあるの」
「何ですか?」
「卒業式に生徒代表で答辞を読んでほしいの」
「私がですか? よろしいのでしょうか?」
「もちろんよ。本読みや演技だって上手だしね」
その後、飛鳥はまた笑顔になった。

放課後、今日は仕事が休みのため、居残りをして卒業式の時に言う言葉を考えていた。
教室では、飛鳥一人だけが残っていた。
何時間かして、ようやく飛鳥自身、納得のいく文ができあがった。
そして、まず先生にこれでよいか確認してもらおうと職員室に行こうと立ち上がったとき、
教室の真ん中に1枚、プリントが落ちていることに気づいた。
飛鳥がそれを拾って見てみると、今日返ってきたテストのようだ。
氏名の欄には『松本裕司』と書かれている。
そして、点数を見てみると89と書かれており、その上に斜線で引いて消された99と書いてあった。
そこでなんとなく、飛鳥は間違えて丸をしていた部分を見た。
飛鳥は唖然とした。
先生は気づかなかったのかもしれない。
間違って丸をつけた問題。
そこには消した跡があり、そして丸の文字の上から間違いの答えが書かれていた。
					
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