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第2話~撮影~

飛鳥は一枚の紙を渡された。
「この一行を言うだけでいいから」
そういわれ、飛鳥は眼鏡をかけてその一行を見た。
その一行はこれである。
『これからの携帯はこうでなきゃ』
それ以外にも、携帯電話で自分の写真を撮るなど、細かいことが書かれていた。
「あの・・・・なんなんですかこれは?」
「あれ?まだ言ってなかったっけ?CMだよCM。新しい携帯電話の」
そこで飛鳥はあることを思い出した。
本屋から外に出る時に本屋の前でたわむれていた女学生が、近くでCM撮影があると噂していたことを。
「まずいな~もう1時間も予定過ぎてるよ。監督カンカンだろうな~」
と言って、飛鳥は今度は外に連れてこられた。
回りはカメラや、見学者がいて、少し空いたスペースに飛鳥が一人立っている状態にある。
上を見てみると大きなマイクがあった
そして、飛鳥は携帯電話の新機種らしきものを渡された。
「ではよーいスタート」
その掛け声と同時にカメラが回された。
が、飛鳥は何をしていいのか全く分からずに、すぐに「カット」という声が聞こえた。
するとすぐに、大室がとんできて、飛鳥と一緒に陰のほうへ移動した。
「ごめんごめん、言い忘れてたね、スタートって言われたら空に携帯電話をかざすんだよ」
「いや、あの・・・・」
「何?まだ分からないところある?」
「だ・・・・大丈夫です」
飛鳥は少し弱気になって大室にそう言ってしまった。
「ではもう一度、スタート」
その声が聞こえてきて、飛鳥は言われたとおり携帯電話を手に持って空にかざした。
次に、台本に書かれていたことは携帯電話を使って自分の顔を撮ると書いてあったので、そうしようとしたが、携帯電話を触ったことさえなかった飛鳥にとって、容易いことではなかった。
もちろんカットである

そして、また何回かやってようやく台詞をいうところまで来た。
たった30秒のCMだというのに。
「これからの携帯はこうでなきゃ」
棒読みであった。
もちろんカットである。
さすがに、その棒読みには監督も腹を立ててしまった。
「もういい、今日はここまでだ、このCMもやめやめ」
その言葉を聞いて、大室はその監督の前で頭を下げて言った。
「申し訳ありません」
しかし、それでも監督は大室にたいして怒っている。大室はずっと謝り続けていた。
その姿に飛鳥は心を動かされた。
自分のミスのせいで人が怒られている。罪悪感で胸のなかを押しつぶされそうな気分だった。
「もう一度やらせてください」
飛鳥は怒ってる監督に向かってそう言った。
なぜほぼ強制的にやらされている撮影にたいして、こんなことを言うのか、飛鳥自身分かっていなかった。
こんなことやりたくないと思っていたぐらいなのに。
「じゃあ、あと一回だ」
「はい」

飛鳥は深く深呼吸をした。
あまりテレビを見ないけれども、見たことのあるドラマやCMを思い出してイメージする。
できる。私ならできる。
飛鳥は自分に言い聞かせた。
「よろしくお願いします」

飛鳥は携帯を手にもって空にかざし、まぶしさを感じさせる表情をして自分の顔を撮る。
飛鳥は携帯に写った自分の写真を見て「これからの携帯は・・・」と言、一呼吸置いて「こうでなくっちゃ」とカメラ目線で言った。
台本には書いてない、飛鳥のアレンジである。
「はいカット」
運よく、その一回だけで成功させることができた。
「ごめんね、無理やりやらせちゃって」
「役に立てたならそれでいいです」
飛鳥はあえて自分が男だと告白しなかった。
まあ、どうせ今回かぎりであるだろうと思ったからである。
「そうそう、君の住所は? お礼のお金とか渡したいし」
「い、いえいえ、お金は結構です」
飛鳥はすぐに帰れるように帰る準備をした。
先ほどの服を着て、眼鏡をかけ、問題集が入った袋を持ち、バスから出ようとする。
「あっそうそう、苗字聞いてなかったんだけど」
大室は飛鳥の背中に向かってそう聞いた。
「聞いてどうするのですか?」
「CM見て名前誰かって聞きに来る人。CMって名前でるわけじゃないからさ。」
飛鳥は迷った。
本当の苗字を言ってしまうと、いくら確率が低いとはいえ知り合いにばれてしまう可能性がある。ただでさえ、「あすか」というのは同じなのだ。
とくに、裕司だけにはバレたくなかった。
そこでふと思い出した、今手に持っている問題集の監修を。たしか、名前は覚えていないが苗字は中西だったはずだ。
「中西です」
「えっと、じゃあ中西明日香だね?」
「はい、中西明日香です」
飛鳥は大室がメモをするのを確認し、「じゃあ、さようなら」と言って帰っていた。
「じゃあな、ちなみにCMの放送は5月1日からだから」

そして、5月1日になった。
飛鳥はリビングに行き、カップにココアを入れて飲んでいた。
すると、母親がつけていたテレビからあのCMが流れ出した。
一瞬ドキッとしてココアを吹き出しそうになったが何とか耐えた。
そして、急に飛鳥は顔が赤くなった。
とりあえず、ココアを飲んで落ち着くことにした。
どうやら、母親は飛鳥だと気づいていないらしい。
それだけでかなり安心できた。

次の日も学校で何も言われることはなかった。
たった30秒のCMなうえに、髪の色が違うし、どう見たって女の子だったから分かるはずがない。
そうは思いながらも、少し飛鳥は落ち着かずにいた。
そのこと事態は飛鳥自身も分かっていた。なので、その落ち着きのなさに変に思われる可能性はあったので飛鳥にとっては心配であった。
「ア・ス・カ」
そう後ろから聞こえてきたと同時に、飛鳥は後ろから抱かれた。
抱きついてきたのは言うまでもなく裕司だ
「やめてください、男同士で」
「男同士だからできんじゃん、飛鳥が女だったらセクハラだし」
毎度のことながら飛鳥はあきれた。
まず、抱きつくという行為自体が間違っているし、男だろうが女だろうが、抱きつく目的がセクハラに近い。
まあ、とりあえずそのことが原因で落ち着きを取り戻したため、今日のところは許そう。
そう思っていると、裕司は話し出した。
「そういえば飛鳥さ、」
「何ですか?」
飛鳥は、祐司に抱きつかれた反動で少しずれていた眼鏡を元に戻し、すこしうっとおしそうに聞いた。
「昨日、携帯電話のコマーシャルでてなかった?」
					
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