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第11話~引退宣言~

気持ち悪い。
何が「友樹ともっと遊びたかった」だ。
こっちは翔太と遊ぶために、わざわざ女装までして芸能界に入ったんだぞ。遊びで入ったわけじゃない。
だいたい、100歩譲って翔太も女装して芸能界入ってくるのはいい。
でも、なんでそれは俺に伝えてくれなかったんだ。俺に憧れてこの世界に入ろうと思ったっていう愛梨の言葉は嘘だったのかよ。冗談のつもりで言った? ふざけるなよ。
ああでも、本当、あの言葉で喜んだ俺がバカだった。ショックだわ本当。
愛梨が翔太だと知ったことももちろんショックだけど、翔太がそんなことするやつだと思ってショックをうけたし、失望した。
俺と遊びたかったって、俺からしたら遊ばれてただけじゃないか。
愛梨と俺でゲームセンターにいけたんだから、翔太と俺でゲームセンターにいけたじゃないか。
わざわざ、愛梨になる必要があったのか?
俺が愛梨の事好きだからって、面白がってただけじゃないのか。
ああだめだ。考えるとまた腹立ってきた。こんなことさっさと忘れたい。俺が好きになった女の子が親友だと思ってた男だなんてことを。

「ごめん。なんか気分害しちゃった?」
ふと、そんな声で俺は現実に戻った。
今は拓海に誘われて喫茶店で食事中。
拓海との会話が止まって食事をしていると、一週間前のことを思い出してしまった。
あの屋上での愛梨(翔太)の告白から5日がたつ。
正直、翔太とは話したくもないので学校では無視を決め込んでいる。翔太もさすがに察しているのか、あれから何も話しかけてこない。
「ごめんごめん。大室さんの厳しいレッスンを思い出しちゃって」
とりあえず俺は機嫌が悪そうになっていた理由をそうごまかした。
ところで、拓海を見て思ったが、俺はどうなんだ。
俺は拓海を騙して一緒に遊んでるんじゃないのか。
それって、やってることは翔太と同じなんじゃ・・・。
いや、いやいやいや、全然違う。
俺は、普段の拓海を知らないし、拓海は普段の俺を知らない。
だけど、愛梨の場合は違う。
俺は普段の愛梨は知らなかったわけだけれども、愛梨からすれば普段の俺は知っていたわけだ。
もちろん、愛梨が翔太だと知ってる今となっては、普段の愛梨を知っているということになるが、少なくとも1週間前までは知らなかった。
今思ってもそれは不公平だ。
後、俺は拓海からの告白にたいしてOKという返答をしなかった。
対して、愛梨の場合は、自分が男(翔太)だということを隠したうえで告白にたいしてOKの返答をしてきた。
どう考えてもそれはおかしい。詐欺だろそれは。
まあ、俺の場合も告白にたいしてノーと言ったわけではないんだけど。だから、今でもこうやって普通に食事できてるわけだし。
でもそれは、拓海がまだ俺のことを好きだからなのだろうし、友美が男だとしったら好きにはならないだろう。
友美が男だと知ったら、食事なんて誘わないし、一緒に遊ぶこともないかもしれない。
でも、俺はそれを黙って、いや、騙して拓海と一緒にいることになる。
それってやっぱり、俺も翔太と同じなんじゃあ・・・。
でも、俺なら、拓海に男だということを打ち明けるつもりは全くない。多分、何もいわずにこの世界を去るだろうと思う。
なのに、なんで翔太は、愛梨が自分だって俺に告白してきたんだ。
俺が怒ることなんて想像できただろうに。
俺が愛梨のこと好きだから、急にいなくなると寂しがるだろうからと思ったんだろうか。
でも、やっぱり俺ならそんな打ち明け話は聞きたくなかった。
特にそれが翔太だっていうなら・・・。
ある意味、今まで好きだった二人を同時に失ったようなもんだ。

「そういえば、デビュー決まったんだっけ」
拓海が有川友美のCDデビューについての話に変えてきたので、俺もそっちの話をすることにする。
とりあえず今は、愛梨や翔太のことは忘れよう。今俺が話してるのは拓海なんだから。
「そうそう。猛レッスンのすえ、なんとかデビューまで漕ぎ着けてね。あのレッスンはもう思い出したくもない」
「明日の音楽番組でテレビ初披露って聞いたけど」
そう。拓海のいうように、明日の生放送音楽番組でテレビ初披露することになる。
そしてなんと、明日は愛梨も出演者リストに入っていた。先週もでてるはずなので二週連続だ。どうやら急に決まったらしい。
できるかぎり会うことは控えたかったというのに、いきなり仕事で一緒になるとか。
まあ、一緒に歌うわけではないわけだし、まだマシか。大室のユニット結成案が実現していたらそうなっていたわけだし。
幸い、携帯電話のCMの話もない。だいたい、こないだの撮影分は引っ越しなんだから、もうあのシリーズはないのではないだろうか。
今思えば、あのCM撮影の日々は嬉しかったし、楽しかったなぁ・・・。
いかんいかん。また愛梨のことを考えてしまった。話を戻そう。
「まあね。あいにく、生放送なうえに番組プロデューサーがアンチ口パクだから、醜い生歌になる可能性大ありだけど」
「実は明日のその時間って、同じ曲でドラマ撮影があって、それが終わる頃に始まるらしいだよね。あの番組って結構、番組と関係ない芸能人を入れて見学させてくれることあるらしいから、俺も見学させてもらおうかなって」
「へぇ・・・」
いったい何を思って拓海はこういうことを言ってるのだろうか。
悪いが俺は「ありがとう! うれしい!!」なんて言わないぞ。
もしかして、ちょっと気に入られようとして言ってるのかもしれないが、それならむしろ言わずに来たほうがいいだろ。
聞かずに来てくれて応援されたほうがサプライズ感があって嬉しさが増す可能性もあるわけだし
だいたい、まだ入れるか分からないわけだよ。万が一入れなかったら、仕事帰りに偶然を装ってあって、一緒に帰るという口実が・・・って、それこないだの俺じゃねーか!
今思えば、あの時、俺が愛梨に言った言葉は、翔太が愛梨だと疑っているような言い方だったかも。だから、愛梨は、自分が翔太だと告白してきたのかもしれない。
いや、正確にいうと『今思えば』じゃない。少しは疑ってたというのが事実だ。
だけど、まさかそんなことがあるはずないという気もちのほうが強かった。
だから、愛梨に、翔太の机から歌詞が書かれた紙がでてきたことを話した。
愛梨がその発言にたいして、何も思っていないように振る舞うことを願って。
まあ、結果はそんなことはなかったわけだ。
だいたい、あそこは動揺はしても、もう少し平静を装うところだろ。今考えたらアホだ、翔太は。

ああもう駄目だ。考えないようにしようとすると逆に考えようとしてしまう。
そういやなんかのテレビで見たな。『青い象のことだけは考えないで』というと、青い象のことばかり考えてしまうという話。人間の心理なんて結局そんなもんなのか。
はぁ。俺はもう翔太と一緒に遊ぶことはないんだろうか・・・。
多分、あいつもそのつもりで告白したんだろうけど。
と思いながら拓海の顔を見て、思わず俺は自然と口が動いてしまった。
「あのさ、もしも、もしもなんだけど・・・」
つづけて俺は拓海に尋ねようとするものの、そこまで言って言葉がつまる。
やっぱりこういうことは言うべきではないんじゃないかと思い始めてきた。
「どうしたの?」
「いや、ごめん。なんでもない。しょうもないことだからやめた」
「いいよ、しょうもないことでも。どういうこと?」
そう言うと、拓海は真剣な眼差しで俺の目を見てきた。
人の話を聞くときは目を見るようにと育てられてきたのかもしれない。
こうまで真剣に話を聞こうとされるとさすがに断りづらい。
俺はあたりを見渡して人が近くにいないことを確認し、拓海に質問した。

「もし、あたしが男だって言ったらどうする?」

しばしの沈黙。
「・・・えっ? 男?」
3秒ほど立って拓海が聞き返してきた。
うん。まあ、そうなるよな。
「ごめんごめん。今のは忘れて。変なこと聞いちゃった」
「・・・何かあったの?」
くそ、そう聞きかえすか。いや、そりゃそう聞き返すか。
うーむ・・・。何かあったのは確かなんだけど、正直に話すのはためらわれるしなぁ。
「女の子の友だちが男だって言ってきて」
なんてふうにウソじゃないけど、具体的には言わないごまかしかたはできるだろけど、それはそれでどうなんだと。
だからといって何も言わないのはそれはそれで不自然だよなぁ。変な疑いを持たれかねない。いや、そこで持たれる疑いは正しいんだろうけど。
と、そこで俺はひらめいた。
「こないだ読んだ漫画でそういう場面があってね。女装のときは友だちと接しているのだけれども、男のときは彼氏として接している女の子に、友だちである女は自分、つまり男だって白状するという場面。白状した後は不仲になるんだけど、しばらくするとよりを戻して、リアルじゃありえないよなぁ。って思って、試しに聞いてみたわけ」
「ああ。なんだそういうことか」
思ったより単純だなこいつ。
まあ、俺の発言も確かに現実味があったか。我ながら、とっさの判断にしてはよくこんな嘘言えたもんだ。
「例えば、よくこうやって喫茶店で食事たり、ゲーセンに行ったりしてるけど、あたしが男だって分かったら・・・って、本当は女なんだよ。あくまで『もしも』だから。もし男だって告白されたりしたら、今までどおり接することができると思う?」
「そうだなぁ・・・」
拓海は斜め右上に視線をむけて考えこむ。
俺はその拓海の顔をのぞき込んだ。
「今までと全く同じように接することはできないかもしれないけど、時間が解決してくれそうな気がするな。友美ちゃんの読んだ漫画と同じで」
俺は拓海の顔をじっと見た。残念ながら、先ほどの発言が本音かどうかは分からない。
よくよく考えたら、拓海は一流の俳優だ。
顔をちゃんと見ていれば嘘かどうか見抜けると思った自分がバカだったか。
「そっか。ありがとう」
俺は、くだらない質問に、一生懸命考えてくれたことにお礼を言った。
それにしても、時間が解決か・・・。
俺と翔太の仲も時間が解決するんだろうか。
いや、そもそも俺はどうしたいんだ?
俺は、翔太とよりを戻したいと思っているのか?
あれほど、ひどく騙されたというのに。

次の日。
音楽番組の本番が刻一刻と近づいてきた。
リハーサルで俺が歌った後、「思ったよりひどいんですが、いいんですか? やっぱり口パクに変えたほうが・・・」と話してるスタッフがいたような気がするが、ぜひそうしてほしいものだ。
俺の下手な歌をテレビで披露なんてしたら、確実にネットで叩かれるからな。
いやでも、口パクとバレたらそれはそれで叩かれるか。口パクの練習をしてたわけではないし・・・。
くそっ。なんというジレンマだ。悩ましい悩ましい。
愛梨とは一瞬目があったものの、すぐに目をそらした。会話は一切していない。
どうも、長い打ち合わせをしていたようだけれども、俺には知ったこっちゃない。
ところで、曲順についてだけれども、俺が2番めで、愛梨はラストとなっているらしい。
二週連続出演で、ラストを飾るなんて珍しいな。なんて思いながら、本番の時間になった。
一人目の歌が終わり、俺の番となる。
初出場だとか、テレビ初披露だとか、「今夜一緒に出演している卯月愛梨さんとはCMで共演」だとか(その話はするな!)、
なんとまあ他愛もないことを言って歌の披露となった。
そして、終了。さすがに緊張したがいつもよりは上手く歌えた気がする。拍手がまばらだったような気もしなくはないけど、気のせい気のせい。
後は休憩みたいなもんだ。
カメラに映った時は適当にリアクションとらなきゃいけないようだけど、それぐらいだろう。
それから30分ほどして愛梨の番となった。
相変わらず歌がうまい。合唱での翔太もうまかった。よくよく考えたら、合唱中に感じたモヤモヤは、翔太の歌を聴いて、愛梨を思い出したんだろうな。歌い方もそっくりなわけだし。同一人物なんだから当たり前だけど。
ただ、前に一緒に練習していたときと比べるとどこかぎこちなく、苦しそうにも感じる。
ふと、前に大室が言っていたことを思い出した。
「なんだろうなぁ。声変わりか?」
翔太は男なうえに、4月と生まれも早い。この時期に声変わりになっても別に不思議ではないだろう。
よくよく思い返してみれば、翔太の声も最近変わってる気もしなくはない。一年前の記憶の翔太を思い返してみると、もう少し声が高かった気がする。
いやでもまてよ。声変わりっていうことは・・・。
と考えている間に愛梨の歌が終了した。
普通ならここでCMに入り、すぐに席に戻ってくるはずだが、今回は違う。
愛梨にスポットライトがあたり、あたりは静まり返っていた。
「みなさんにお知らせがあります」
マイクをにぎりしめた愛梨はカメラ目線でいう。
「今回のこの出演を最後に、私、卯月愛梨は芸能界を引退することを決めました」
客席や、ゲストの席がざわめく。
さすがに司会の二人には知らされていたらしく、表情を変えていないことが伺える。
「私、卯月愛梨は、普通の女の子に戻ります」
ネタで言ってるのかそれは・・・。
「たった半年間と短い間でしたが、この時間は、一生忘れることができない私の宝物です。」
たった・・・半年だと・・・。
「今まで本当にありがとうございました」
そう言うと愛梨はカメラにむかって深くお辞儀をし、拍手が沸き起こり、番組はCMに入った。

番組が終了すると、俺は愛梨と目を合わさずに一人、控室に戻った。
愛梨のほうは、大きな花束をうけとり、番組終了後もしばらく話をしていたらしいが、俺は交わるつもりはなく、そもそも何を話していいのやら皆目検討がつかなかった。
それにしても、辞めるにしてもこんな大々的にテレビで発表する必要なんてあるのか。
いつの間にかテレビにでなくなった人なんていっぱいいるんだし、それと同じでこっそりテレビの世界からいなくなったっていいじゃないか。
前に、男子校に通ってたという椿姫彩菜という女性がいたけど、めっきり見なくなったぞ。
だいたい、たった半年でこの仕事を辞めるって何だよ。仕事なめてるのか。
そりゃあ、声変わりで女の子のような声が出しづらいというのは分かるけど、せめてもう少しつづけたって・・・。
そもそも、なんで俺に辞めることを伝えなかったんだよ。愛梨が翔太だと伝えてそれで終わりかよ。
ああ・・・。駄目だ。なんかイライラしてきた。
時計を見ると、もう控室に戻ってきてから15分も経過していた。
そろそろ、愛梨も控室に戻り、着替えているところかもしれない。そう思い、俺は急いで着替え、控室を後にした。

控室をでて愛梨の控室にむかうと、ちょうど愛梨が控室から出てきたところであった。
今すぐ話しかけようかとも考えたが、さすがに思いとどまり、しばらく愛梨の後をつけ、局をでてしばらくたってひと気が少なくなったところで愛梨を引き止めた。
「おい、待てって」
その声に反応して、愛梨姿の翔太が後ろを振り向く。
さも、急いで追いかけてきたような言い回しになってしまったが、それはともかくだ。
「辞めるってどういうことだよ?」
「どういうことって何だよ?」
「いや、だからさ・・・。俺にはなんで伝えなかったのかって」
「言っただろこないだ。愛梨が翔太だって伝えた時に」
「えっ?」
全く覚えてない。よくよく考えたら、愛梨が翔太と告げられたショックと怒りでその後、翔太が何を言っていたのかまったく覚えてない。その時に言ってたのか。
「いやでも、たった半年で辞めるって、そりゃないんじゃないか」
「お前は声変わりしても続ける気か?」
言い返す言葉が見つからない・・・。実際、俺だって声変わりしたらさすがに辞めるつもりだった。
でも、ここで肯定してはダメな気がした。だから、思わずこう言ってしまった。
「俺は、俺はたとえ声変わりして今より男の声になったとしても、なんとか克服して仕事を続けようとするよ」と。
翔太は苦笑気味だ。ヤケになっていることぐらい感付かれたのかもしれない
翔太は俺の顔を見てこう言った。
「無茶いうな・・・よ・・・」
最後のほうの切れ味が悪い。急に、後ろめたさでも感じたのだろうか? と思って翔太の顔をよくよく見てみると、驚いた顔になっており、その視線は俺・・・というよりも、俺の後ろを見ているような・・・。
なんとなく嫌な予感がし、翔太の視線を頼りに、ゆっくりと後ろを振り向いた。
「男ってどういうこと?」
そこには拓海の姿があった。
					
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