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第3話~久々のゲーセン~

仮に、俺が控室で愛梨の連絡帳なんかを見つけたらどうするだろう。
そう、間違いなく中身を見てしまうだろう。いや、愛梨だけじゃなく、翔太や拓海のでも見るかもしれない。
しかも、その連絡帳に書かれた名前が一字違い、しかも異性の名前だったらどうだ。
いったい、どういうことだ? と疑問に思って中身を見てしまうだろう。

「あ、あの・・」
「ごめんなさい」
愛梨が何か言おうとしたが、それを遮って俺は頭を下げ、謝った。言われることは分かってる。名前が違う、しかも男の名前だということにたいして問い詰めようとしたのだろう。
「本当は俺、男なんです」
もう愛梨に何を言われるか、頭の中で脳内再生してしまっている。
「気持ち悪い」「最悪」「こっちにこないで」「変態」
想像するだけで凹んでくる。
だが、先にそういうことを言われると想定したほうが、実際に言われた時のダメージは小さいだろう。
とにかく、何か言ってほしい。いや、俺がさっさとここを去るべきか。と思っていたら、愛梨が一言。
「私こそごめんなさい」
や、やばい。その言葉はそ、想像だにしてなかった・・・。って、えっ?
「勝手に連絡帳を見てしまって」
あれ?
「秘密を知ってしまって、本当ごめんなさい」
何かがおかしい。怒ってないのか? しかも、俺が謝られた? 何で?
「えっと、怒ってないの?」
「はい。男だろうと女だろうと、私の憧れの人には違いないので」
多分、第三者から見るとポカーンとした顔つきになっていると思う。そんな顔で俺は愛梨の姿を見た。
やばい。愛梨が天使に見えてきた。感激すぎて涙がでそうだ。
「えっ・・・えっと、あ、そうだ・・・」
と言って愛梨は俺のカバンと俺の連絡帳をもって、俺のもとに駆け寄り、俺に手渡した。
「あの、着替えるので・・・」
「あっ、ああそうか。ごめん」
すぐに俺は控室をでて、そのまま帰路についた。
なんだか想像以上にあっさりしすぎて、正直、唖然としている。
しかも、男でも憧れの人・・・。もしかしてこれは、チャンスありということなのだろうか?


そんなこんなで終業式となった。
明日から夏休み。まあ、仕事や大量の宿題があって休みどころではないかもしれないが、今まで土日はほぼ仕事だったことを考えると、かなり休みが増えるようにはなる。
ところで、俺が芸能界に入るまで、毎週のように週末は翔太と遊んでいたのだけれども、最近では全く遊べなくなった。
仕事をするようになってから翔太は何度か、「今度の土曜日、ゲーセンでも行かね?」というように遊びの誘いがあったが、その度に仕事だからと断ってきていた。
そういえば、ここ1ヶ月ぐらいは翔太から遊びの誘いを受けることもほとんどなくなったような気がする。まあ、あれだけ断ってたら当然か。
そういうわけで、翔太に話しかけることにした。
「夏休みもちょくちょく仕事入ってるけど、毎日あるわけじゃないから、俺が休みの日に一緒にまたゲーセンでも行こうぜ」
というような具合にだ。ただ、翔太の返答はどうにも俺の期待に答えるものではなかった。
「そうだな。ただ、俺のほうも最近ちょっといろいろあって、いつでも大丈夫ってわけではいかないんだよ」
そういえば、こないだも図書委員の代表代理を頼んだ時に用があると言っていたのを思い出して、理由を聞くことにした。
「何かやってんの? こないだも放課後、用があるって言ってたけど」
「塾だよ塾。来年、受験だからさ」
ああ、そうか。俺ら小学6年生だった。そういえば今年のはじめ頃に、受けるって言ってたっけ。
「そうか受験か。翔太、頭いいもんな」
「お前よりはな。っていっても、俺が受ける学校は、家系がその学校に行く習慣があるだけなんだけどな。親戚が学校の運営に関わってるから。そんなに偏差値が高いわけでもないし、今年いっぱいぐらいだと遊べると思うぞ」
そうか、それはよかった。
「なら、ファイモンも一緒に遊べそうだな」
「そうだな。それ考えるとよかったかもしれないな。友樹が仕事して」
確かにそうだ。俺がもし仕事をすることになっていなかったらファイモンを遊ぶことができたのは、クリスマス以降。そうなると翔太は受験直前でゲームどころじゃなくなってしまう。
でも、もし仕事をしてなかったら翔太と遊ぶ時間がもっとあったって考えるとそれはそれで悲しいよなぁ。もし、土日がほとんど仕事でつぶれるということが分かっていて、翔太が来年受験ということを覚えていたら、俺は芸能界になることを引き受けただろうか。
まあ、そんなこと考えたって、仕方ないんだけどさ。
「じゃあ、来週の木曜日とかどう? 俺、その日は仕事休みなんだけど」
「その日は俺も大丈夫」
「なら、11時にいつものゲーセンで」
「オッケー」

日曜日。
この日はドラマの収録があったのだけど、先ほど収録が終わり、今は更衣室に行く前に自動販売機やテレビがある休憩場所で、コーラを買って休んでいるところだ。
何気なく、テレビを見ていると先日撮影した、CMが放映された。確か、今日からだったか。
できあがったCMは初めて見たけれど、撮影したときとは全く違う印象をもつ。
特に、離れて撮影していたにも関わらず、画面は左右半々となってお互いの顔が映し出されているのを見ると少しニヤけてしまった。
「かわいく映ってるね」
「うんうん。・・・・・・って、えぇ!」
いつの間にか隣には拓海がいた。もう少し気配を出してくれ。それとも、そんなに俺がこのCMを見るのに集中してたのか?
まあいいや。それより、さっきの拓海のセリフって友美のことを指してると思うんだけど、それに対して「うんうん」って。何たる自画自賛! 恥ずかしい。
「いや、今のは私自身に言ったんじゃなくて、一緒に出てた愛梨に・・・」
「愛梨ちゃんって言うんだ今の子。その子がこないだ、喫茶店で話してた子?」
「そうなんですよ。言った通り、キレイな子だと思いませんでした?」
「そうだね。キレイな子だったと思う。でも・・・」
と言って、拓海は横目で俺のほうを見た後、「いや、何でもない」、と言った。なんじゃそりゃ。

次の日の月曜日。
今回は、愛梨と出演した携帯電話のCMの別バージョンの撮影である。
またまた愛梨に会えるのだ! よっしゃー!!
ちなみに今は、愛梨と共同の控室。そろそろ愛梨も来るころだ。
と思っていると、コンコン。と、ノックの音がした。
き、きたーーー。
「おはようございます。えっと、友樹君」
な、なんと本名で呼んでくれた。てっきりずっと「友美」と呼ばれるもんかと思ってたが。
「お、おはようございます。う、卯月さん」
「愛梨でいいですよ」
呼べるか! とは思ったが、しかたない。「愛梨」と呼ぶことにした。
「愛梨」
「はい」
やばい。「はい」って言いながら、笑顔でこっち見てくれた。やばい。まじやばい。悶え死にそう。
「あの、着替えたいので・・・」
「あ、ああ。ごめん」
というわけで、先に着替えていた俺は、撮影所に向かうことにした。
よくよく考えたら、男だってバレてなかったら、一緒の場で着替えてたんだよなぁ。それはそれで惜しいことをしたか。
いやでも、もしそうなるといろんな意味でやばいから、男とバレてよかったか。

で、CMのほうは、まだ一日しか放送していないので具体的なことはよく分からないけれども、なかなか好評らしい。
今後もこの二人を中心としたシリーズも考えているとのことだ。それはうれしい。
ところで、今回撮影するCMの内容はこうだ。
教室で一人泣いている俺、つまり友美演じる女の子にたいして、廊下からこっそり見つめる愛梨演じる女の子が電話をかけて、
「今度の土曜日遊ばない?」
というだけの内容だ。
対面で伝えにくいちょっとしたことを電話で。というコンセプトらしい。
泣く演技は今までやったことがないので不安だったけれども、男とバレて世間からパッシングされることを考えると意外と早く泣けることができた。
実際に起こったら俺どうなるんだよ・・・。

まあそういうわけで撮影は順調に進んですぐに終わり、控室に戻ったのだけれども、何も考えずに普通に愛梨と控室に戻ってしまった。
どちらかが先に着替えなきゃいけないわけだけれども、ここはレディファスト。俺がでていこう。
「じゃあ、俺トイレに行ったフリしてこもっとくから」
「ありがとう友樹くん。」
その後、俺はトイレにこもることにした。10分ぐらいこもっていれば多分大丈夫だろう。
それにしても、「ありがとう友樹くん」だって。やばい録音しとけばよかったー。って、そんな装置持ってないけど。
恋か。これが恋なんだよな。よくわかんないけど、これが恋なはずだ。ということは、初恋だ。
俺もとうとう恋しちゃいましたか。
ああ、今俺むっちゃニヤけてる。周りから見ると気持ち悪い顔してる。いやでも、ここはトイレの個室だし誰も見てないから別にいっか。
「絶対、拓海くんあの子のこと好きだよね」
想像に妄想を膨らませていたが、気づくと誰か、女子二人が拓海について話していることに気付いた。
この声は確か、同じドラマに出演している女の子二人だろうか。そういえば今日、俺の出ないパートの撮影があるんだっけ。
「でも、あの子は気づいてなさそうだよね。かわいそうに。鈍感すぎるでしょ」
「ずるいなあ。ああいう子には勝てる気がしない」
「あれだけアプローチしてるのに気付いてあげてないなんて」
女子が好きな恋愛話だ。拓海が誰のことが好きかなんて俺の知ったこっちゃない。
俺が気になるのは、愛梨だ。愛梨に好きな人がいるのかどうか。

木曜日。
太鼓でリズムをとる音楽ゲームを翔太とやっている最中に、ふと話してみた。
「翔太って告白したことある? というより、誰か女子と付き合ったことある?」
「何だよ急に。告白したことも、女子と付き合ったこともねーけど」
やっぱりないか・・・。
「俺、好きな人ができてさ・・・」
「なっ!」
手を動かすゲームをやっているというのに、翔太の手が止まったのが分かった。すぐに再開したけど、そんなに驚くようなこと言ったか?
「クラスメイトか?」
「いや、仕事で出会った子で」
「まさか、お前と一緒にCMに出てる卯月愛梨か?」
よく知ってるな。CMなんて名前がでるわけでもないのに。
まあ、俺のデビューCMみたいに、どこかの番組でとりあげたのかもな。最近はテレビに出る時間が増えた代わりに、見る時間がかなり減ったからなぁ。
それとも、わざわざホームページ見たりして調べたんだろうか?
「そう。その子。すっごいキレイな子で、いい子なんだよ。男ってバレたんだけど、別に構わないって」
「そうか。でも、俺にアドバイスを求められても、いい返答ができそうにないな」
「だよなぁ」
曲が終わってみると、途中翔太の手が止まっていたにもかかわらず、翔太は俺とほとんど同じ点数だった。少しなまったか俺。
「どうすんのそれで?」
「どうしようか迷ってるから聞いたんだって」
「そうだな。まあ別に俺は告白してもいいんじゃないかと思うぞ。男って知っても態度変わらないような人ってことは、返事がノーでも今までどおりには接してくれるんじゃないか?」
そういう考え方があるか。確かに、愛梨なら返事がノーでも今までどおり接してくれそうな気がする。
問題は俺のほうだけど、このままこの気持ちをずっと抱えているのもそれはそれで辛い。
「分かったよ。ありがとう翔太。告白してみることにする」
「そ、そうか・・・」
その時、翔太の顔がどうにも気まずそうな顔になっているように感じた。
「どうしたんだよ?」
「いや、何でもない。次、銀拳やるか。」
「そうだな」
まあいいや。多分、気のせいだろう。
その後は翔太と格闘ゲームをやり、その日は夕方までずっと、翔太と遊んだ。
					
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