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第2話~メモ用の連絡帳~

女装して芸能人をやっていく楽しみが一つ増えた。
先日の携帯電話のオーディションでは、俺(友美)の推薦もあって愛梨が見事合格し、今度一緒に撮影することになったのだ。
最初から推薦をしようと思っていたわけではないが、CMの制作会社のプロデューサーがもう一人と迷っていたために推薦することにしたのだ。
「さっき私あの子から、元気な挨拶を受けたんです。本日はよろしくお願いしますって。挨拶をしてきてくれたのはこの子だけでした。この業界に入る以上、挨拶がしっかりできる必要があると思います。演技力では、他の子たちと比べて特別うまいわけではないと思いますが、この業界で生きていくのに大切な素質は持っているんじゃないかと思います。それになんたってたって、ダントツでキレイじゃないですか!」
という感じでだ。
まあ、この業界に入って3か月ほどしかたってない人間がいうには、上から目線だったかもしれないが、そのおかげで愛梨と仕事ができるんだ。本当によかった。
これで俺が、友美じゃなく、友樹だったらもっとよかったのだけれども・・・。
ところで、その審査が終わって大室と二人になった時に、「どう考えても、愛梨以外考えられないと思うのに、何を迷うことがあったんでしょう」と愚痴ると、「気を使わせたのかもしれない。」とのことだった。
一応、友美がメインのCMなので、友美よりキレイな女の子を出すのはどうかとためらわれたんじゃないかというのが大室の予想だ。
そんな気をつかう必要なんて全然ないのに。

「うれしそうだね。 何かいいことでもあった?」
目の前にいる黒瀬拓海に尋ねられたところで、そういえば今は喫茶店だということを思い出した。
拓海は友美と同じ、小学6年生の男で、最近テレビや雑誌で話題の子役タレントだ。
先日より、友美と拓海が出演することになった夏休み用の昼ドラの撮影で会い、意気投合したばかりだ。
だいたい、俺は昔から女と接することがほとんどなかったもんだから、どちらかというと男とのほうが気軽に話せる性格で、どうやら友美になったところでその性格は変わらないらしい。
どうにも女子と話すとドギマギしてしまうのだ。早くこの性格を直して、せめて愛梨とぐらいはうまく話せるようになりたいのだが。
ちなみに今日、喫茶店に誘ってきたのは拓海のほうだ。
「それが、今度出るCMに一緒に出演する女の子がキレイな子で」
「そうなんだ。もしかして、友美ちゃんってそっちのほうに気があるの?」
「そうそ・・・」じゃなかった。「ち、違うんですよ。キレイな子なのに、なんと私を憧れてこの世界に入ろうと思ったって言われてうれしくって」
「おおっ! それはうれしいよね。俺も事務所の後輩に言われたことあるけど」

同じ事務所か・・・。
実はいうと、愛梨は大室プロ所属ではない。てっきり愛梨は大室プロに所属するものだとばかり思っていたので、そうではないと知った時は結構ショックだった。
大室プロに所属する可能性もあったのだけれども、今回は他の事務所に譲ったという。
確か、あの時に大室とした会話はこんな感じだったはずだ。
「な、何で譲ったんですか! あの子絶対伸びますって。キレイだし、俺のタイプだし」
「そう怒るなよ。春本はオレとともにこの世界を生きてきたんだ。そして、先日俺に憧れて独立した。こちらとしても応援したいし、今回は譲った」
どうやら、愛梨が所属することになる事務所のプロデューサー、春本は大室と知り合いらしい。
「大学時代の後輩ですか?」
「いや、そうではない」
「もしかして、昔大室プロで働いてたとか」
「いや、働いてはない」
なんじゃそりゃ。「イチローはわしが育てた」と言ってるもんじゃないか。
まあでも、大室と春本が一緒に仕事をしてきたのは事実らしい。大室が独立する前に働いていた会社の同僚なんだとか。話を聞く限り、大室にあこがれているというのは、本人の思い過ごしじゃないと思うところではあったが。

「残念ながら、私の場合、その子とは違う事務所なんです・・・」
「それはすごいよ。同じ事務所の場合、先輩に贔屓してもらおうと考えている可能性が高いし」
いや、それは同じ事務所じゃなくてもあまり関係ないんじゃないだろか。一緒に仕事をするわけだし。
「友美ちゃんは何でこの業界に入ったの?」
「えっと、私はファイモンがほしくて・・・」
しまった。本当のことを言ってしまった。女の子がゲームが欲しいから芸能人になったというのは変じゃないか? いや、でもファイモンなら老若男女愛されるゲームなはず。
「ああ。そういえば今度、新作が発売されるんだっけ?」
よかった。特に何も思っていないらしい。
「そうそう。でも、金欠で買うにはお金が足りなくて。ちょうどそんな時に大室さんにスカウトしてもらえたんです」
「ファイモンかぁ。俺はやったことないんだけど、愛梨ちゃんの様子見てると面白そうだね。」
「そりゃあ、面白いですよ。ストーリーもキャラクターもアクション性も。もう、何をとっても素晴らしいです」
「じゃあ、俺も今度の新作買ってみようかな。通信して遊ぶこともできるんだよね?」
なっ・・・。
「もちろん」
「楽しみだな。友美ちゃんと遊ぶの」
キター。ファイモン仲間が増えたー! 
ん? でも、この場合、男主人公と女主人公のどちらを選べばいいのだろうか。
友美が男主人公選んでるとやっぱり変か。他にファイモン一緒にやる翔太とかの友達は俺が友美だと知ってるわけだし、ここはやっぱり女主人公を選ぶべきだろうか。
「どうしたの?」
考え事をしていたせいか、拓海に聞かれた。
「え、えっと、私も楽しみだなって」
「そうだね」
拓海はなぜか微笑んでいたが、俺は苦笑いをしていた。


さて、いよいよCM撮影の日である。
とはいっても、今は登校時間。学校が終わったらすぐに撮影場所に行くことになる。
こんなに楽しみな仕事は初めてかもしれない。
なんたって愛梨とまた会えるのだ。これでせめて、俺が男として接することができたらよかったのだけれども。
なんてことを考えながら教室に入ると、黒板には先生が書いたらしい、お知らせが書いてあったのだが・・・。
「な、なんじゃこりゃーーー!!」
そこには”図書委員”の代表は、放課後図書室へ集まるように。と書いてあった。
この学校ではクラスの全員がどこかの委員に所属することになり、俺は数少ない漫画を読め、かつ漫画を図書室に普及するために図書委員なるものに入ったのだけれども、そこで思わず代表になってしまったのである。理由は簡単、代表のほうが意見が通りやすいと勝手に思ったからだ。実際はそんなことないというのに・・・。
「おいおい聞いてないぞ。」
これはまずい。かなりまずいぞ。
とは思ったが、しかたがない。仕事で・・・ということは俺だけかもしれないが、中には病気で休んでる人もいるだろう。
そういう時はどうするか。簡単だ。他の図書委員を代表代理にしてしまえばいいのだ!
「翔太く~ん」
俺は、同じ図書委員の翔太に話しかけた。
「やめろその喋り方。気持ち悪い。鳥肌が立つ」
「まあまあ、お願い。 今日の図書委員の代表の集まり変わってくれ! 今日、放課後仕事なんだよ!」
俺は翔太の前で手をあわせて、懇願した。
「えぇ! お前、代理作ってなかったのかよ。前から言われてただろ」
やっぱり言われてたのか。自分の記憶力のなさを呪いたい。
「まあ、とにかく俺今日は本当無理なんだよ。頼む」
俺は、ひたすら頼んだ。今日、急きょ仕事を休んだら、スタッフのみんなに迷惑がかかるし、だいいち愛梨に会えないのだ。それは困る。
「悪い」
なっ・・・。
「俺も今日、放課後用事があるんだよ」
なんだってーーー。お、俺はどうすりゃいいんだ・・・。
「古岡にでも頼んでくれ」
古岡というのは、女子の図書委員だ。いかにもネクラな感じで、普段からずっと本を読んでいる。今もそちらを見てみると本を読んでいた。
もう一人、浜本という図書委員の女子がいるが、いつもギリギリに登校してくるような子で、今日もまだ登校していなかった。いや、そもそも浜岡は昨日風邪で休んでいたはずだ。今日だって来るという保証はない。
しかたなしに、俺は古岡に頼むことにした。
普段から女子と接することのない俺にとってかなり話しにくい。
「古岡、悪いんだけどさ・・・。えっと、あの、今日の放課後のやつなんだけど・・・」
「『謎解きはランチの前に2』。図書室に寄付」
古岡は、本に視線を向けたままそう言った。ベストセラー小説の最新刊を寄付しろと言っているらしい。
「わかった」
まさか、本を要求されるとは思っていなかったが、それで引き受けてくれるなら安いものだ。
いくらするのか知らないが、高くないことを祈る。

放課後、とにかく俺は図書委員担当の先生に見つかる前にさっさと学校をでて撮影場所のスタジオに向かった。
だいたい、電車で30分近くのところに撮影場所がある。
どうにもこちらをチラチラ見てくる人が多くなってきて最近困ってきた。いいかげん、車で迎えに来てほしい物だ。
そうこうしているうちに、スタジオに到着した。
俺が来たときにはまだ愛梨はいなかったが、しばらくして、愛梨もスタジオに到着した。
「本日はよろしくお願いします」
と、俺に向かってお辞儀してくる愛梨。
「う・・・うん。こちらこそ、よろしくね」
ダメだダメだ。何を緊張しているんだ。嫌がってるようにみえるじゃないか。愛梨と一緒に仕事をできるのはうれしいが、本当この女の子を前にするとうまく話せなくなる性格なんとかしたい。特に、今回はひどい。
「では、早速撮影しますので、位置についてください」
スタジオには二軒の家に見せかけた部屋が二つならんだセットがある。それぞれがそれぞれの家という設定で、今回は自分の部屋にいながら話すという内容になっている。
よくよく考えると、別々に撮影してもよさそうなCMだけど、監督の意向でそれぞれ実際に話した方が臨場感がでると考えてそうしたらしい。ナイス!
ただ、残念ながら撮影中は愛梨の顔を見れないが、まあ実際に対面で話す演技じゃなくてよかったかもしれない。
いくらなんでも、女子と対面で話す演技ぐらい、最近は普通にできるようにはなってきたが、愛梨相手だと普通にできる自信がない。
「明日の家庭科、何持っていけばいいんだっけ?」
「連絡帳に書いてないの?」
「書いてるよ。でもタダだもん。いっぱい話したほうがお得でしょ?」
こんな具合に撮影はすすんでいき、最大30秒のCMということもあってすんなりと終わってしまった。
撮影が終わって愛梨と話そうとしたが、すでに男性スタッフ陣に囲まれて入れない状況であった。
話を聞くに、褒めてもらっている様子だ。まあ、初めての仕事なわけだしにぎやかになるのも無理はない。俺も最初はそうだった。ような気がする。

とりあえず俺は、さっさと控室に戻って衣装から着替えることにした。今回は愛梨と一緒の控室となっているので、愛梨が来る前にさっさと着替えなければ時間がかぶってしまう。さすがにそれは、まずい。鼻血を出しかねない。
で、着替え終えたと同時に携帯電話から着信が鳴る。知らない番号からだ。とってみると古岡だった。
どうやら、今日の集まりでは、これから図書室に入れていく本や、ルールを話し合っていたらしい。夏休み明けにもまたやるらしい。今代理で来ている人は、ちゃんと代表の人が来るように伝えるように言われたそうだ。
まあ、それだけだと明日言ってもよさそうなことだたったが、一つ早めに言っておいたほうがいいと思って俺に電話をしてきたそうだ。
「『謎解きはランチの前に2』は学校側が購入することが決定したので買わなくていい」とのことだ。
それはよかった。先ほど調べてみたら1600円と思ったより高かったので、今度また請求してきた時に買おうと思ってたところだ。
「ありがとう古岡」
そう言って俺は電話を切り、忘れないうちに、先ほどのCMじゃないが、連絡帳をカバンからとりだしてメモをしておくことにする。
その日は仕事は今のところ入ってないし、入れないように大室さんに頼むことにしよう。
と、そのメモを書き残して連絡帳を閉じたときにノックの音がした。
「大室さんが呼んでるよ。急いで来てほしいって」
愛梨だった。
急いで? 何だろうか? 今後の予定か?
「わ、分かった。ありがとう」
ダメだ俺。まだドギマギしてる。
とにかく俺は、その場を離れてすぐに大室さんのもとに向かった。
「何ですか? 話って?」
「見てみろこれ」
大室さんが渡してきたのはスタッフの名前が書かれた用紙だった。
「これがどうしたんですか?」
「有川友美の下に、卯月愛梨とあるだろ」
「はぁ・・・」
「友愛だな」
な・・・。何を言い出すんだこの人は。友愛? いつの総理大臣だよ。
確かに、それぞれ名前の一文字目が「友」と「愛」で並べたら「友愛」だけど、えっ? そんなことで呼んだの?
「いや。これは重要な問題だぞ。このCMで人気が出て二人でユニットを組んで歌手デビューなんてした場合に、名前を決めやすい」
「いやいや、友愛なんてユニット名、安直すぎませんか?」
「カタカナにするという手もある。いや、『You I』なんてのもいいな。『あなたとわたし』という意味ですって」
「いや、あまり変わらないような・・・」
いったいなんなんだこのおっさんは・・・。
「まあそれはともかくとして、休みの希望でも聞いておこうと思ってな」
「そうですか。こっちもちょうどその話をしようと思ってたところで、さっき連絡帳にメモを・・・」
いや、ちょっと待った。その連絡帳は今どこにある? 少なくとも今俺の手元にはない。
カバンの中に入れた? いや、いやいやいや違うぞ。違う。
メモを書いた後閉じて、名前の書いてある表紙を上にしたままそのままじゃねーか!
あの部屋には今、愛梨がいるんだぞ! やばすぎる!!
とにかく俺は走って控室に戻ることにした。
「おーい。希望聞いてねーぞ」
後ろから大室の声が聞こえるが、そんなのもう後でもいい。
とにかく今はあの連絡帳を見られる前に・・・。
と、そのままの勢いで控室のドアを開けた。

そこには、俺の連絡帳を持ってる愛梨の姿があった。
					
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